『頑張れ!消えるな!!色素薄子さん』創作秘話!

連載当初はどのようなお話として考えていましたか?

とーことりあえず、薄子達の卒業までは描こうかなと。1巻で1年生、2巻で2年生、という風な想定をしていました。
ところが1巻が出たとき単行本の感想が、良いのから悪いのまでいろいろやってきたんです。思っていたよりもいろんな人に読まれていると思うと、嬉しさよりもまず恐さがありました。良い評価は同人誌の頃からでも直接会った読者さんから聞けるんですけど、悪い評価を貰うような機会って、よくよく考えてみるとなかったんです。すごくくやしくて、「見返してやるまで終われない」と、人生で初めてすごく闘争心が湧いてきました。1巻が出たあとは、「この作品をどこまで描けるかというのが自分にとっては勝負所だな」という気持ちになり、2巻目からは意識がガラリと変わりましたね。

薄子さんというキャラクターの誕生秘話は単行本に掲載されているのでそちらを……ということにしまして、他のキャラクター達が生まれた経緯を教えてください。

とーこ画子は薄子を描いたすぐあとにイラストを描いたのですが、なんであのキャラになったのか覚えていません。なぜピカソにしたのも覚えていない(笑) 多分直感で描いている内に、漫画にする時には薄子をイジるキャラが必要だなって思ったんだと思います。
雲ちんは、最初から「大学にいそうな普通の女の子」というテーマがありました。ただ、単行本のあとがきにも描いたんですけど、サイン会のときに雲ちんのリクエストが一人もいなくて、個人的に好きなキャラだったのですごくショックを受けました。きっと自分の中だけで生きてたんですね。画子との描き分けもできてませんしね……2巻以降はキャラ性を出すようにしました。

雲ちんこと小泉雲子といえば、薄子さんの兄濃造との恋愛模様がお話の中心です。7巻のエピソードなどはすごく少女漫画的だな、と感じたのですが。

とーこ2人が出会った2巻の頃から雲ちんの気持ちを溜め込んでいたので、やっと吐き出せる!という喜びがありました。「やったね雲ちん!」とニヤニヤしながらネームを描いていました(笑) あのネームは、「濃造への気持ち」と「脚本家としての気持ち」をリンクさせないといけなくて苦労したんですけど、あの回は珍しく担当さんに編集長も褒めてくれたので、思い残すことはないほど幸せな回でした。
ともかく、私にとって「可愛い女の子」のルーツは萌え系からよりも少女漫画から来ていることが多いので、少年誌でああいう話が描けたのは嬉しかったですね。

そのお相手の濃造も、大分強烈なキャラクターですよね。

とーこ濃造は担当さんと決めました。薄子のお兄さんを出すという話になったとき、担当さんが「濃造……」とボソっとつぶやいたんです。「濃男」みたいな名前を考えていたんですけど「造」って!どっから出てきたんですかその文字!みたいな感じで頂かせてもらいました。
学校と家ではギャップが激しいという設定はプロット中に思いつきました。雲ちんが惚れることが大前提だったんで、「あの格好良い人は誰だ!?」、という状況に持っていくためには、ガサツな感じよりも学校内では大人な振る舞いをしている方が良いかなと思ったんです。

それでは、4巻から登場する撫子の話も聞かせてください。

とーこ基本キャラ表とか書かないのですが、撫子は唯一設定をあらかじめ決めたキャラクターでした。4巻に入る前に担当さんと打ち合わせで、「新学期だから新学年の後輩を作ろう」という話と、雑談で「方言、可愛いよね」という流れになりまして(笑) 自分は京都が好きだったので、私が「京ことばにしよう」。そして担当さんが「それなら黒髪パッツンストレート少女だ!」と、容姿も自然に決まっていった感じです。

撫子といえば、京都旅行回でのお姉さんとのエピソードが印象的でした!

とーこ年中春な感じでぽわわんとしてる撫子も、実は裏で悩んでたんだ、というのはずっと描きたかったんです。初登場回に、お姉さんに見送られるという描写を1コマ描いていたんですけど、あのときから「お姉さんと別れた後ろめたさ」があることを考えていました。それを袴というアイテムでつなげるのを思いついたのは、京都回を描いているときです。
巻数を追うごとに、どのキャラも愛着が芽生えてきて動かしやすくなっていきましたね。

逆に、思いの外動かしにくくなったキャラクターはいますか。

とーこ助手さんです。彼女は同人誌の頃から登場させているんですけど、同人誌の頃の薄子さんはどちらかというとシュールな世界観で、その世界観だと助手さんもはまっていたんです。ところが連載になって、「薄子さんはほんわか日常系」みたいなのをいろんな人に言われて意識するようになったのですが、助手さんを出すとそういう世界観をガシガシ壊してしまう(笑) 本当はメインとして登場してもらう予定だったんですけど、たまに出てくる変な人というサブキャラになってしまいました。

よくわかりました(笑) その一方、先生の作品では、1話限定で登場する登場人物も皆魅力的なのですが、本編には描かれていない、彼らのバックストーリーなどは考えているのでしょうか?

とーこ結構考えていますね。たとえば、薄子が電車の中で会った老夫婦は、あの日が結婚記念日なのでおばあさんが「たまには外に出ようよ」と、いつも家にいるおじいさんを無理やり電車で連れ出して、遠ノ宮から3駅くらい離れたところに散歩に行く、っていう裏話があったりします。
京都回の途中で出てきたナツさんは出身が滋賀なので、あのときはたまたま実家に帰っていたんですけど、他の200日くらいはバイクとかヒッチハイクで日本を縦断しているアクティブなお姉さんだという裏設定があります。ナツさんは、もう一回出すことができるかな?と思っています。

そういう裏まで考えているからこそ、キャラが「立つ」のでしょうか。

とーこ漫画にしたら数10ページくらいですけど、キャラクター自身はそれ以上の年月を持っていて、たまたまある部分を切り取って漫画にしているに過ぎないと思っています。見えない部分をめちゃくちゃにしていると、見えている部分も上手く繋がらないという気持ちがあって。産まれて、幼少時代があり、10数年経ってからのいまがあるので、その頃をアルバムをめくる感じで追いつつ、20歳ぐらいになってから薄子さんと会えたんだなって考えていると、「あーこのキャラ生きてるんだな」と感じるときがあります。自分のなかでは、その感覚が漫画を描くうえで一番大事にしていることです。

それでは最後に、主人公である薄子さんの話を。作品全体の流れとしては、「薄子さんのやりたいこと探し」に、徐々にスポットが当たっている感じです。この話の流れは、最初から考えていたのでしょうか。

とーこまったく考えてなかったです(笑) 最初の頃は、「とにかく薄い」というキャラ性を活かしたショートストーリーとして考えていたんですけど、だんだん「やりたいことが見つからなくて悩んでいる薄子」や、「まわりに応援されながら頑張る薄子」を描いていたら、1巻の「薄いネタ」でダラダラと続けていくよりも、周りの人が増えるにつれて薄子自身も変わっていくのを、丁寧に描いたほうがいいなと思うようになりました。
8巻から9巻の話では、リアルタイムに「薄子、これからどうするんだよ!?私、なにもしてあげられないよ!?」と、薄子と一緒に悩んでいる感じです(笑) 今後も薄いネタも入れつつ、薄子の成長物語になっていくと思います。

それでは最後に、漫画家を目指している学生の方へメッセージを!

とーこ中途半端な気持ちでは入ってきて欲しくはないという気持ちと、なにより不安定な職業なので、どうしても漫画を描きたいという強い芯がないと続けられないと心配する気持ちもあります。
それを踏まえて実践的な話をすると、同人誌でもネームだけでもいいので、ちゃんと決めたページ数で完結するお話を沢山描いたほうが良いと思います。
あとはできれば10代の内に、好きな漫画をとにかく読んでおいて欲しいです。お話を作るには経験がないと駄目なので、取り入れられるものを若い内にいっぱい経験して欲しいです。旅行にもたくさん行ってください。いろいろ飛び込んで経験してください。人生では無駄になるかもしれないことも、漫画の上では大きな財産になります。
絵や技術は後からついてくるはずなので大丈夫。何においても、漫画描く人はまず漫画を読まないと描けないと思うのですが、私自身漫画をあまり読んできませんでした。20代後半になって「漫画描くために漫画読まなきゃ」ってなるのはしんどいんですよ。「このコマ割上手いな」とか技術的なことばっかり気になっちゃって楽しめないんです。ですので、楽しめるうちに沢山読んでおいてください!

本日はありがとうございました!

toko

 


せんちゃん(眉ほそ)あたたメモ
個人的に「電車内の老夫婦」がすごく良いなぁ……と思っておりましたので、あの二人のバックグラウンドストーリーをお聞きできたのが嬉しかったです(笑) また、デジタルのおかげでデビューできたというのも興味深かったです。道具の進歩によって、今まで日の目を見ることのなかった才能が表舞台へと上ることが、今後も増えていくのではないでしょうか!


 

文責:あたた(@atatakeuchi)

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