「ルパン」を『漫画』で描くことの面白さ

ここからは、『アバンチュリエ』の制作現場の裏側を探っていきたいと思います!
まずは、ネームの切り方を教えてください。すでに作者がこの世にいない中で、小説を原作にして漫画に起こすのは大変ではないでしょうか?

森田初期はやっぱり、どれくらいの分量がふさわしいのかが分からなくて悩みましたね。今は小説の倍くらい、つまり小説13ページ分を描くと、漫画が26ページぐらいになるという大体の目安ができました。
あとは見せ場を軸に考えていきますね。今回はこの見せ場まで、次回はこの見せ場で終わり、という感じで決めていきます。その見せ場に向かってネームを切っていく。その回の一番の描きどころを決めてから逆算して決める感じです。それに対するほかのシーンは、全てそこに結実するような作り方を目指しています。
そういう意味で、『金髪婦人編』は見せ場が定期的にあるのでやりやすかったです。
『金髪婦人』の1話目は、宝くじ編を終わらせつつ、今回の「金髪婦人編」はショームズとの対決なんだということを見せるために、冒頭ショームズの登場から始まって最後もショームズを出して終わる。次の回は男爵の殺人という見せ場があるのですが、次の青ダイヤのオークションの回が、ルパンも出てこなければショームズも出てこないので、「金髪婦人編」では一番描きにくいところでした。ここが一番かったるく感じられるだろうと思って、ここさえ乗り越えればなんとかなるだろうと。最後に「金髪婦人を追い詰める!」というところで終わって、なんとか見せ場を作るようにしました。「絶対見せ場を作るんだ」ということは、常に意識していないと上手くいかないことが多いです。

次に、キャラクターデザインのこだわりについても教えてください。

森田ルパンに関しては、完訳版を読んだときに感じた、若き青年という印象を大事にしています。第一話を読んだとき――ネタバレになってしまうんですけど――ルパンが変装しているダンドレジーという男の印象が、若い男の子だという読み味だったんです。一人称が「僕」だったりするんですよね、完訳版だと。ネリーさんを必死で落とそうともするし(笑) 児童版のイメージで、僕もモノクルにマントを付け、ちょび髭を生やした中年紳士がルパンだと思っていたので、ダンドレジー君の気持ちになっていつルパンが出てくるんだろうなと思って読んでいたら、そのダンドレジー君がルパンだった訳です(笑) そうすると、僕の中で「ルパンって若かったんだ」という衝撃が強く残ったんです。
そこで、僕の中でルパンのデザインのスタートはすごく少年顔というか、少年と青年の間くらいの顔で高校のときは描いていました。そのときは、第一話でダンドレジーが金髪と言われていたので、ルパンも金髪で描いていましたね。ただイブニングの連載のときに、企画を起こしてくれた編集さんのリクエストで、日本人の読者に親しみやすいように黒髪にしようという話になって。僕もその方が良いと思いました。というのも、高校時代にはなかったルパンのイメージ像の一つとして、『コードギアス』のルルーシュがありました。プライドが高くて能力も高い、だけれどその能力で上手く生きていくよりも、命を燃やしてしまい、時には手酷い失敗もする。『銀河英雄伝説』のラインハルトもそうですね。彼らのイメージに寄せると良いかなと思うところもありました。

あとルパンのキャラデザで難しいところは、読者にルパンだと分からせないで騙したいときと、ルパンだと分かって読んでもらわないと主人公不在で読みにくいときがあるので、二つの間で毎回悩んでいます。本当に騙すときは、本腰を入れてキャラデザをしました。上手くいったのは脱獄の回ですね。原作を読んでいない人がそれなりに騙されてくれたので(笑)

読者がぼんやりと頭に思い浮かべる小説とは違い、明確な姿を描かないといけない漫画ならではの苦労ですね。

ほかのキャラクターはどのように決められたのでしょうか?

森田ガニマールは、フランスのドラマ版がすごく僕の中でぴったりだったのでそちらを参考にしています。あとはショームズですね。NHKのドラマのジェレミー・ブレッドがやっていた「あの」ホームズを参考に描いています。
ショームズは、ホームズに寄せたほうが良いのか、それとも完全に別キャラにするのか散々悩みました。実はルブランの原作には、ショームズにひげのある描写があったりして、そのひげも訳によって頬ひげだったり口ひげだったりと、書かれていることが食い違っていたりするんです。
ホームズとは全然別の容姿を持つと解釈している研究者の方もいるんですけど、僕はこれはイギリスの一般的な市民と変わらないって描写に過ぎなくて、ホームズと一緒だったという解釈の余地もあるんじゃないかと思っています。やっぱり、幻想の余地を残しておいて、読者に判断を委ねたほうが良いと思って。本当はホームズなんだけど、諸事情でショームズと書いているだけだよと捉えてもらってもいいし、逆にホームズファンが、ルパンにしてやられるなんてこんなのホームズじゃないと思うのなら、これはハーロック・ショームズという別キャラだと思ってもらっても良いようにと。なので僕は、容姿に関しては完全に本家ホームズを意識して描いています。

『アバンチュリエ』は、20世紀初頭「ベル・エポック」期のフランスを丹念に描いていることも特徴的です。森田先生の知識量はもちろんのこと、かなり念入りに資料を集めて描いているのでしょうか?

森田もちろん、資料はそれなりに集めています。それに、描いていて初めて分かることもたくさんあるんです。たとえば5巻に掲載する話の中に、ルパンとガニマールがエレベーターの扉越しにやり取りするシーンがあったんですけど、最初読んだときは違和感を覚えました。僕たちのエレベーターのイメージだと、完全に扉が閉まって密室になってしまうものを想像するじゃないですか。それだとどうやって会話できるんだろうと疑問でした。
でも当時のエレベーターの扉は、『タイタニック』にも出てくるように「柵」になっているのが普通なんですよね。そうなると、小さいとき小説を読んでピンとこなかったことが、漫画に描いて初めてこういうやりとりだったのかと分かるわけです。それを調べて絵にするのは、描いていて一番楽しいことです。

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お見せ頂いた作画資料。これでもまだまだほんの一部らしい……!

 

しかし、原作が発表された当時の人にとってそのようなことは常識であって、わざわざ小説で描写しなくても良かったのかもしれないですよね。そういった自分達現代の日本人には分からない部分を、漫画の絵によって埋めていくところが『アバンチュリエ』の魅力の一つだと思います。

森田その通りです! 僕が説明するまでもありませんでしたね(笑)  そこが面白いところであり、意義があると思って描いているところです。
例えば、『ティベルメニル城』の回に地下道がトリックとして出てくるじゃないですか。あれも、自分達にとっては家の下に地下道があるというのはリアリティがなくて、子供向けのような荒唐無稽さを感じてしまうと思うんです。しかしまさに当時の人達の常識で考えると、パリでは一家に一台みたいな感じで地下室があったり、地下水道が街中に張り巡らされていたりするんです。そういうことまで知っていると、話としてリアリティも出てくるわけです。そのような時代背景も含めて、漫画の中で伝えていきたいと思っています。

『アバンチュリエ』は心の中にある「原作通り」

かつては大衆小説だったということもあり、当時の人はものすごいダイナミズムを感じながら読んでいたのだと思います。逆に今、その当時の人達が感じていたワクワク感を再現するには、漫画という形を取るのが一番適しているように思えます。

森田それだけ読み取って頂ければ、もう万々歳ですね! それに、僕が小説を読んでいるときはまさに漫画で描いているような感じで読んでいるんですよ。とはいえ、じゃあ読んでとほかの人に原作の小説を渡しても、訳文が古いというのもあるんですけど、僕が味わっているような高揚感を共有できる人は少ないと思います。そこを僕は演出したいというか、心の中で盛り上がっているこの感じを、人に分かる形で示したいというのはありますね。
『アバンチュリエ』は僕の心の中にある、「原作通り」なんですよ。読みながら頭に浮かんでいた情景、自分が感じた気持ちを、読者にも味わってもらいたいがために描いているんだと思います。

最後にファンの方、そして『アバンチュリエ』を読んだことのない学生の方にそれぞれメッセージを!

森田応援してくださった方、おかげさまで移籍も決定しました。これは本当に感謝してもしきれないです。これからまだまだ面白くなっていくはずなので、是非今後も読んでいただければ。あと周りの人に勧めていただけると、より安定した連載が見込めると思いますのでよろしくお願いします(笑)

『アバンチュリエ』は、まずは昔ルパンを読んだことのある大人の人が主に応援してくれているんですけど、ほかにも読んでほしい読者層は、まさに学生の世代なんです。僕が中高大学生の頃、そして20代の頃に一番ハマっていたのがルパンであり、そういう方達に面白いと思っていただけると嬉しいですね。
僕の描きたい漫画って、少年誌に持って行けば「君の描きたいものは青年誌だよ」と言われ、青年誌に行けば「君が向いてるのは少年誌」だと言われるんですよね(笑)  僕のやりたいラインというのは、下手すると大人は子供っぽい、子供から見ると難しくて読めないって言われかねないんですけど、うまくいけばどっちの人にも楽しめるはずなんです。『ガンダム』や『デスノート』、『ナウシカ』に『銀河英雄伝説』など、僕が理想としている作品名でいうと分かりやすいと思います。この辺りってどっちの媒体に載っていても違和感がないんですよね。大人もいくつになっても楽しめると思うし、子供はちょっと背伸びして読む面白さがある。

ほかから聞いた話なんですけど、20歳で好きだったものは一生好きなままなんだそうです。僕の場合も中学高校大学と好きだったものは今でも変わらないので、『アバンチュリエ』をきっかけに、その年代の人達がアルセーヌを好きになってくれたらこれ以上の喜びはありませんね。

学生である東京マンガラボの部員達も、『HEROS』での新連載を楽しみにしています! 本日は本当にありがとうございました!

 

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せんちゃん(眉ほそ)あたたメモ
アバンチュリエの移籍新連載開始が待ち遠しいです!『アバンチュリエ』に限らず、その雑誌を読む読者層の違いなどの「ほんのちょっとしたボタンの掛け違い」で連載が終わってしまった作品は数多あると思います。今後漫画家さんがより自由に連載・移籍先の雑誌を選ぶことができるようになり、僕たち読者が面白い漫画に出会える確率が、もっと高くなれば良いですね!