幻冬舎月刊コミックバーズの人気連載作『大東京トイボックス』が今年7月にめでたく完結を迎え、単行本最終巻となる10巻が今月24日に発売された。
ゲーム業界が舞台の一大群像劇である本作では、前触れなく変わる納期との戦い、業界全体を巻き込む「表現規制」の波など、今業界でまさに起こっている/いてもおかしくない問題を乗り越えようとするゲーム会社の人々の姿が描かれている。だが、「トイボ」はリアルさだけが売りの作品ではない。そこから浮かび上がってくるのは、様々な葛藤にぶつかりながら、それでも「自分が面白いと思えるゲーム」を作ろうとするゲームクリエイター達の熱い、熱い人間ドラマなのだ!
さらに、モーニングからの電撃移籍など、作品外の動きからも目が離せなかったトイボシリーズ。今回マンガラボインタビュー班は、作者である漫画家ユニット「うめ」の原作担当、小沢高広先生を直撃!連載開始以前から順を辿り、足掛け約10年に渡った連載を改めて振り返って頂いた。

1章:太陽、月山、仙水……それぞれのキャラクターはどのようにして生まれたか。
2章:移籍の決定的な鍵となったものとは
3章:「デスパレートハイスクール」に「表現規制」……作品の軸となった要素を探る
4章:ネタバレ全開!最終10巻について
5章:読者へのメッセージと直筆サイン!


「仕様変更ってやっぱりディレクターの華なんです」

なぜゲーム業界を題材にされた作品をお描きになったのか?というお話は、以前のインタビューなどですでにお答えになっています(直近の記事としてコチラから)。そこで今回は視点を変え、それぞれのキャラクターがどのようにして生まれたのかにスポットを当ててお聞きしていきたいと思います。まずは、主人公の太陽から。

小沢そもそも『東京トイボックス(以下無印)』でゲームを扱うと決めたときに、一つ困ったことがありました。それは、過去にゲーム業界漫画がほとんどなかったことです。ゼロではなくて、いくつかルポ系や元ゲーム業界出身の漫画家の方が描いた漫画はあったんですが、自分たちが描きたい方向性とは違ってました。

実録系というか暴露系、そういった感じでしょうか。「ゲーム業界はこんなにブラックなところだぞ!」みたいな。

小沢そうですね。ブラックさをネタ的に笑うタイプです。あとは、人気タイトルの開発現場の秘めたエピソードといった方向ですね。そういった作風ももちろん面白いんですが、やはりゲーム業界にいた経験がないと描きにくいし、なにしろ描ける気もしない。ところがそうすると、「型」がないんですよ。「ゲーム業界漫画って、こんな感じでストーリーが進むよね」といった、お話作りの型がない訳です。野球漫画だったらある程度型があるじゃないですか。たとえば高校野球ものだったら、まず地方予選から描いていって、幕間に恋愛イベントを挟みつつ、次に甲子園の試合を1試合ずつじっくり描いて、というパターンがありますよね。

そのままだと、お話作りの方針が立たないまま描き進めることになってしまうと。

小沢それで一つ参考にしたのが、それこそ昔ながらの「スポ根」だったんです。要するに、主人公が仲間とともに力をあわせ、一試合一試合を乗り越えていく、という王道のパターンですね。企画、α、β、マスターアップといったゲームの制作行程を、それぞれの試合にみたてて考えていきました。
ゲーム制作というものが、そこまで一般的に認知されてるわけではないので、お話の構造まで難しくしちゃうと、本当に伝わらない。かといってあまり解説を多くするとエンタメではなく、学習マンガっぽくなっちゃう。そういった点でもなじみ深い構造で描いたのは功を奏したんじゃないかと思ってます。そういう前提があった上で、必然的に、太陽のキャラクターは、試合の最中に自分を見つめ、ちょっとずつ成長していく、決めるときはバシッとキメ台詞を言うといったタイプの主人公に落ち着いていった訳です。

太陽のキメ台詞といえば「仕様を一部変更する!」ですね。一見するとただの事務的な台詞でしかないんですが(笑)、なぜあの言葉をキメ台詞として使われることになったんでしょうか。

小沢取材の過程でもそうだし、業界ルポみたいな本を読んでもわかったことなんですけど、ゲームの現場でドラマが起きる瞬間って、やっぱり仕様を変更する瞬間なんです。よくないんですよ、本当は。実際に手を動かす下の方からすると冗談じゃないという意見も聞くし、もっと上のプロデューサーの立場の人からも「あそこで変えやがって、とんでもないヤツだ」と怒っている意見を取材でよく聞きました。太陽みたいに胸張って言えるディレクターはそうそういません(笑)

上の人からも下の人からも、両挟みで恨まれてしまうんですね。

小沢ただ、火事と喧嘩は江戸の華じゃないですけど、仕様変更って開発の見せ場というか、ディレクターの華なんですよね(笑) ネガティブなんだけど面白い。それに、エンターテインメントを作る現場というのは、図面通りに正確に作るようなものじゃないんですよね。だから仕様を変更する場面は、一番人間臭さが出るというか、制作の現場がすごくチャーミングな瞬間なんです。

その部分をクローズアップするための、あのキメ台詞だったわけですね。

小沢ただ最初は、あの台詞があそこまで伸びるとは思っていませんでした。読者の方からいろんな反響を頂くなかで、もっと使っていこうと方針を変えたんです。特にゲーム業界の方から、「本当に腹が立った!」とか「あんなノリで変えるな!」といった反応が返ってくるのが、もうしわけないと思いつつ、面白くなってきちゃって(笑)

ゲーム業界の方にとっては、本当にたまったもんじゃない台詞だったんですね(笑) とにかく、物語の節目節目で印象的に使われていたように思います。

小沢同じ言葉でも、聞くときの状況とか立場によって意味が180度変わることってあるじゃないですか。たとえば「嫌い!!」という言葉一つとっても、本当は好きという気持ちの表れだったりする場合もあれば、本当に心底嫌という場合もあるし。それと同じで、「仕様を一部変更する」という言葉に何種類意味を持たせられるかというのは、決め台詞にしていく過程で突き詰めていった所ですね。そこはできる限りバリエーションを増やしたいと考えながら描いていました。

最終的に見開き2ページを使って皆で叫んだりと、次はどういった風に使われるのか毎回の楽しみでした。それでは次に、メインヒロインの月山さんについて教えてください。

小沢月山は相当難産でした。キャラクターの機能としては、いわゆる読者目線となるポジションになるんですよね。業界のことを何も知らなくて、同じく何も知らない読者の代わりにいろんな質問をしてくれるという役割だったんですが、それをどう設定しようかというところでなかなかキャラが落ち着かなくって。インターンシップでやって来る学生という没案もありました。どういうわけか興味も無いゲーム会社にインターンシップで行くことになってしまって、「こんなところ来たくないんです!」って言う訳にもいかないから渋々やってくる子といった感じで。

現在のキャラクターとは、相当イメージが違いますね。

小沢そもそもゲームを作りたい子なのか、それとも作りたくない子なのかもわからなかったんです。ただ、そういう世界に行きたくないのに巻き込まれてしまって、その人が次第に心変わりしていくというのが理想だな、とは思ってました。でもゲームを作りたくないのにゲーム会社で働く状況ってなかなか説得力のある設定がないんですよね。いろんな設定を考えていくなかでなんとかひねり出したキャラクターでした。

太陽と月山の関係性が、物語の脇で小出しにされていくのが、なんというかリアリティがあるなあと思っていました。サークルで「え、お前ら付き合ってたの!?」と驚く感じというか。

小沢そうそう!まさにそういうノリです。というか、社内恋愛ってあんなものですよ、そんなドラマチックには起こらない(笑) あと、そういう部分は……個人的にどうでもいいというか(笑)、あまり興味が持てなかったので本編では飛ばしてしまいましたね。

単行本の巻末のあとがき漫画は毎回ラブ成分が高めでしたが、そうするとあれを描くのはかなり苦労されたんじゃないですか?

小沢あれは本当に大変でしたね。正直あの1話を作るのに、本編の1話を描くのと同じぐらいの労力がかかっています。しかも単行本作業なので、ギャラが出ない(苦笑) まあその辺は、10巻と同時に発売しました「大東京トイボックスSP(サービスパック)」をご覧頂くと、本編ではごく少なかったラブ成分が多めに入った話もありますのでそちらをよろしくお願いします!

二人で部屋を探しに行く話がオススメです!もうひとり、太陽のライバルキャラ仙水はどのようにして生まれたのでしょうか。何か苦労されたことはありますか?

小沢仙水のキャラクター自身に関しては、あまり苦労はなかったですね。外見も初期のラフデザインのときから、ほぼ変わっていません。話す内容もだいたいあんな感じです。
ただ配置は悩みました。また没バージョンの話なのですが、少しでも太陽とのシーンを増やしたくて、仙水をG3のメンバーにしたこともありました。いっしょにソリダスを飛び出ちゃった、という設定ですね。ところがこれだと、仙水のキャラが立たない。七海さんあたりと「太陽のヤツ、また面倒なこと言いだしたね」「ったく」とかなっちゃって、なんとも脇役臭い。そこでいっそすべての面で太陽の真逆にしようということになり、成功者として業界最大手のゲーム会社のキレ者、という配置が生まれました。結果、太陽との直接の絡みこそ減りましたが、直接会わないが故に、いいバランスになったんじゃないかと思っています。いまでもコメディとしては、同じ開発現場の二人というのは、描いてみたいんですが(笑)

キャラクターといえば、すごく個人的な話で申し訳ないんですが、MMGの須田さんがすごく好きで。というより、8巻のように、それまで嫌われてたおじさんキャラがカッコ良いところを見せるというシーンが、すごく好みなんです(笑)

小沢その「あと3日稼いでやる」のくだりは、「最後だし須田ちゃんにもかっこいいとこ作ってやるか!」という感じで作りましたね。須田ちゃんのデレたところが描けたかなと(笑) そうじゃなくても、可愛くて好きなんですけどね、ゼビウス買っちゃうところとか。

須田さんもそうなんですけど、とにかくトイボの中にはわかりやすい悪役がいなかったところが良いなと。全員、彼らなりの信念に基づいて動いているところが、群像劇として非常に面白かったというか。

小沢群像劇の部分はトイボを描く上で大事にしていて、単純な悪役は描かないというにはすごく気をつけていました。かつ、そういうキャラクターを出すのが自分には出来ないんですよ。おそらくそういうキャラクターを出した瞬間に、描くことに興味が無くなってしまいそうで。なので須田ちゃんにしても、いい加減なところだったり、いちいち金にうるさかったり、そういうところも含めて最初から好きでしたね。