すべては物語に入りこんでもらうために……水上先生の創作術

現在作画に使っている画材や、作画行程を教えてください。

水上輪郭線や体のメインのところはGペンで、目・鼻・口や細かいちょっとした斜線と、あとは遠景シーンの小さいキャラクターの線などは丸ペンで描きます。背景は丸ペンで描いてもらって、それからミリペンでちょっと影を入れて調整したり、気になるところを筆ペンで強調してみたり。きまぐれに筆で主線を入れるときもあります。自分は筆ペンを入れているときが1番気持ちいいですね。それが画面を汚くしている要因なんだけど、どうもそれが手癖のようで止められなくて……もうちょっと綺麗な絵を描きたいなとは思ってはいるんだけど、生理的なものなのかどうしてもああゆう絵になってしまいます。

しかし『戦国妖狐』の9巻のバトルシーンは、それこそ筆ペンで描かれているコマが多く「水上先生、このときテンション上がっているんだな」と読んでいるときに感じていました!

水上あれはひさびさに上手く絵が入ったシーンでした。普段はそんなに絵にこだわりを持って描いている方ではないので、毎月消しゴムをかけながら「自分の絵、下手だな」と思ったり、原稿にアシスタントさんへの指示を入れながら「もっとこういう風に描けば良かった」と後悔することが多いのですが、時々そのシーンのように、良い絵が描けたなと思うときもあります。

水上先生の画面からは、「すごく読みやすい」という印象を受けることが多いのですが。

水上絵にこだわりがない分、上手く描こうと思うよりもとにかくわかりやすく描こうと意識しています。今何が起こっているのかがわかりやすい絵の方が、話にも入りこんでもらいやすくなると思うので。わかりやすく描けば、一見つまらなさそうなアイディアでも面白く見せることができます(笑) 逆に何が起こっているかがわからないと、そもそも何が面白いことなのかもわかりにくくなってしまう。
今アワーズで掲載している『俺のまんが道(仮)』は、最終的に漫画の描き方講座にしていこうという話で始まったのですが、そのときは漫画を読みやすくするための話だけに特化して、内容を詰めこみすぎず最終的に本を出すとしたらめちゃくちゃ薄い本にしようかと考えています。「こうしたら漫画が読みやすくなる」という、ただそれ1点だけの、漫画家のなり方の本や描き方本はそうそうないと思いますので。

それは漫画家志望者には是非手元に置いておきたい本になりそうです!それでは現在カラーでどういったものを使っているのかも教えてください。

水上カラーはデジタルです。PhotoshopとSaiを併用しています。カラーはいまだに全然慣れていないですね。デビュー前は、どうせプロになるまでカラーで描く機会はないだろうし、それよりもまずはプロにならなきゃいけないと思ってカラー絵の練習を一切やらなかったんです。なので着色は、デビューしてから慌ててちょっとずつ色を塗るようになり、それから覚えていった感じです。色に関する意識がなかったせいで、色の理想がみえてないから方向性もよくわからない。こういうところがたぶん、絵の才能がないというところなんだと思います。話作りや構成の仕方には理想が見えているのに、絵に関しては理想が見えていないから、見やすさ重視だけで頑張っているというのは自分でも感じます。

絵作りに引き続きお話作りの話を。まずはネームを切るときの手順を教えてください。

水上最初は編集者と打ち合わせをしながら、ノートに次の話で何をやるかなどを書きだしていきます。このキャラクターが何をしたいのか・何をするつもりなのか。その後どういう展開にしたいか、そのためには今回どういった伏線を張る必要があるかといったようなことをどんどんとメモ書きしていきます。
それを元に、ファミレスに行ってノートパソコンにセリフを打ちこんでいきます。台詞組みと同時に、「4コマノート」という最初から4コマの枠線が描いてあるものがあるので、それを横向きにしてコマを2分割にし、それを1見開きだと考え小さく大体のコマ割を描いていきます。セリフの量によってコマの形や大きさが変わるし、描きたい絵、浮かんでいるシーンの目安としてちょっとコマを割ってみるんです。そうやって少しずつ構成していき、セリフを削ったりコマ割を調整しながら全体を組み立てていきます。

先生の作品といえば「熱いセリフ回し」が特徴的ですが、どのようにして練られているのでしょうか。

水上よく聞かれるけど、特殊な思考法とか調べ物をしている訳ではないです。本当に勘というか、とにかく考え続けて思いついたことをそのとおりに描くだけです。
作家さんの中核にあるものはなんとなくできていったものなので、その人の特性についてその人自身に聞いても多分なんとなくでしか答えが返ってこないと思いますね。自分も理由はいろいろと付けられるけど、ほとんどは後付けです。自分が好きなものが好きである理由って、ほとんどないですからね。

自分でも説明しきれないものが「個性」と言えるのかもしれないですね。
それではその後はどのように作業を進められるのでしょうか?

水上脚本ができた段階で、小さいネームを見ながら清書して人に見せます。清書するときもいらないコマを削ったり、セリフをもっと簡潔にしたりと直しながら描きます。しして、それをまずは奥さんに見せます。チェックがすごく厳しいから、いつも駄目だしされたり描き直させられたりするので、そこを調整してカミさんのOKをもらってから編集者にファックスします。そうすると大体は通ります(笑) 正直カミさんのチェックのほうが、編集者よりもずっと厳しいです……

本日は、水上先生の奥様でありアシスタントも務めていらっしゃいます蝶田じゅえるさんにも同席して頂いております。そこでお聞きしたいのですが、ネームのどういったところを注意して見られているのですか?

じゅえるさん自分はプロの視点とかぜんぜん持っていないので、一読者のつもりになって読んだときにわかりやすいかどうか、面白いかどうかで見ています。この人ってセリフが一つ一つすごくキチッとしているから、ついつい説明が長すぎて頭に入りづらかったり、ちょっとわかりづらかったりするので、そういうところを直してもらっています。
たとえば、『戦国妖狐』の1~3巻ぐらいまでは、主人公の迅火も感じ悪いままだし、自分は正直面白さがよくわからなかったんです。なのでこの人に「申し訳ないけどどういう話なのかすごくわかりにくい」と何度も言い続けていました。

水上……(両手で顔を覆う)

じゅえるさん とにかく主人公をどうにかしなきゃということで、二人でいろいろと打ち合わせをした結果、主人公を交代させて第2部を始めるということになりました。

戦国妖狐の展開は、奥様のアドバイスがきっかけだったんですね!それまで2部構成にすることは?

水上なんにも考えていませんでした(笑) 『戦国妖狐』は今までの作品とは真逆の方向ということで、先の展開を何も考えずに描いてみようと思って描きはじめたんです。そうしたら、いわれたとおりに序盤で失敗してしまって……千夜を出した時に「千夜が主人公の話とかもいつか描きたいな」という話をカミさんにしたら「今描いちゃえば?」と言われたんです。正直1部の主人公である迅火は、自分でも扱いづらいなと思っていました。それで主人公を交代させることにしてから、ようやく『戦国妖狐』のラストがみえたんです。「主人公VS主人公」、これならかっこいいじゃん、と。それからようやっと、ラストまでの構成を考え始めたところですね。

「それまでとは逆の方向」ということは、以前の作品作りにおいては設定集であったり、全体の構成をまとめたものなどがあったのでしょうか。

水上「さみだれ」のときはきっちりと作っていました。連載デビュー作の『散人左道』のときに打ち切りにあってしまったので、急いでラストまでいかないとまた打ち切りにあってしまうと思っていて、「さみだれ」はラストから話を考え始めました。
連載が始まってからも、打ち切られる前にはラストまで行かなくとも主人公の話まではとりあえず終わらせなきゃと思い、最初から飛ばし気味で1巻は主人公の話に集中させました。それからちょっとずつ手応えを感じはじめ、キャラクターを増やしていったときにその都度キャラクターのエピソードを少しずつ入れつつも、なるべくダラダラしないようすぐ次の話に行くことを意識していました。打ち合わせをしながら毎回、1巻ごとにその巻ごとのエピソード、1冊分の構成を考えながら話を描いていましたね。

ちなみに、『惑星のさみだれ』ではタイトルそのものがラストの「とあるシーン」と結びついているのですがこれは最初から考えていたのでしょうか?

じゅえるさんあれは私がまだ付き合っていた頃にさみだれを読み始めて、この『惑星のさみだれ』っていうタイトルだと最後はこうなるんでしょ、みたいなことを冗談で言っていたら、この人が本当にそれ使おうって言い出して(笑)

水上構成を作っていたといっても、最初から決まっていたのは最後に主人公がヒロインに何をするかということ、最終回は1エピローグとしてたっぷり1話使うこと。本当にただそれだけだったんです。あとは途中で出てきたキャラクターそれぞれの話もちゃんと決着させるためにも、打ち合わせとかネームで思いついたことをその場のテンションでどんどんと入れていった感じです。適当に伏線ぽいシーンを入れてみたり、自分では伏線として描いたつもりのないものでも、あとで読み返したら伏線に使えるなと思って使うことは今でもよくあります。