「Fellows!(現ハルタ)」にて連載されたSFラブコメディ『ウワガキ』の作者八十八良先生。デビューまでの道のりから成年誌時代の苦労話をお聞きした前編、『ウワガキ』にて、女の子を2人に「分裂」させた意図など今だから話せる「制作の裏話」満載の後編で送るロングインタビュー!

『ウワガキ』以前―ダラダラ生活から心機一転!気づいたときにはエロマンガ家に?―

絵や漫画を描き始めたきっかけは何ですか?

八十八良先生(以下八十八)絵はそれこそ小学校のときから、真っ白い自由帳に授業も聞かず絵を描きまくったり、友達と一緒にチョークで黒板に落書きしすぎて先生に怒られたりするような子供でした。ただ別に絵の商売に就きたいとか漫画家になりたいという気持ちはなかったですね。高校の頃はまともな職に就くことしか考えていなかったです。 ところが大学の進学先を間違えちゃった辺りから当初の予定からズレていきました。高校のとき得意な教科が数学だったので工学部に入ったんですけど、正直機械がそんなに好きじゃなかったんです(笑) パソコンとかプログラムを組むのは好きだったんですけど、入ったのが電子科という、要は回路を組む方の学科だったんです。回路自体にはあまり興味が持てなかったので、大学時代1枚も回路図を書けないまま終わりました(笑) この状態で、その先の研究職だったり電子技術系の就職先を目指すのは無理だと思ったので、卒業してすぐ何も決めないままフラッと東京まで来ちゃったんです。

東京に来てからはどんなことをしていらっしゃったんでしょうか?

八十八コンピューターの扱いは得意だったのでIT系の派遣の仕事に就きました。当時はまだITバブルが続いていて、派遣でもお給料がすごく良かったんです。3日に1回働くぐらいでもちゃんと普通のサラリーマンの方と同じくらいののお給料をいただけたので、1日働いて、あとの2日はゲームをするか、行きつけの飲み屋に開店から閉店過ぎてまで飲んでいるか。そんな絵に書いたような駄目人間でしたね。

ある種モノスゴク羨ましい状態です!そこから絵描きの道へ進むようになったきっかけはあるのでしょうか。

八十八あるとき、友達がいわゆる「エロゲー」ってやつを貸してくれたんです。『君が望む永遠』というゲームで、所詮エロゲなんてと思っていたんですが、「とにかく面白いからやってみろ」と勧められて手をつけてみたら、ドップリハマってしまいました。世の中にはこんなに面白い物を作っている人間がいるのに、まっ昼間から酒飲んでダラダラしている自分はなんだろう、このままじゃイカン!と思ったのが32歳のときです……遅いでしょ?とにかくまずは同人誌を作ってみようと思いました。仕事をしている間もウェブ上にはしょっちゅう落書きとか上げていたのでなんとかなるかもしれないな、と。

同人から活動が始まったんですね。それでは、そこからデビューするまでの流れを教えてください。

八十八ネットで知り合った友達が、同人誌で創作小説を書いていたんです。その小説の表紙とか挿絵を描く人を探しているとのことだったので、「俺が描く代わりに、同人誌を出すノウハウを教えてくれ」って頼んで、夏のコミケにメイドさんの小説で参加しました。そしたら、なんとその表紙を見たワニマガジンの編集さんが「ウチで漫画描いてみない?」とメールをしてくれたんです。まだ4コマを自分のサイトででアップしてるだけの時期でしたので、本当に絵しか見ていなかったんですよ編集さん(笑)

小説の表紙まで目を光らせているとは、エロマンガ誌の編集さんはすごいですね(笑) そのときの口説き文句はどういった感じだったんでしょうか?

八十八池袋のデニーズに呼び出されまして、横に女子高生がいるなか快楽天ビーストをドーンと机の上に出して「ウチはこういう雑誌です!」と熱く説明されましたね。「まだまだ荒削りだけど、絵柄はウチと合っているので頑張って描いてみませんか?」と言われました。 ちょうどその頃、派遣先の会社が遠くに移転する予定だったので、通勤も大変になるし「それなら」と軽い気持ちで決めてしまいました(笑)  ただその頃は4コマしか漫画を描いたことがなかったんで不安だったんですが、「4コマが描ける人なら漫画は描けますからっ!」と言われて、そのときはそういうものなのかと思ったんです。ところがそのあとデビュー作として描いた、たった4ページの漫画をネームの段階で7回ぐらい直されまして「こいつは上手いこと騙されたな」と思いましたね(笑)

デビューは成年誌となった訳ですが、まず苦労したことはなんですか?

八十八人体を描くのが難しいとはじめて思いましたね。最初は「とりあえずハダカの女性を描いていればいいんだろう」と思っていたんですけど、いざ描いてみるととにかく大変なシーンが多いんです。男女の絡みを描くとき「手はどこに置けばいいんだろう」とか考えだしてしまうと、どう描いていいのかわからなくなってくるんです。それに編集部からは「男性の体は最小限にしてください」とも言われるんです。男性が映らないようにしつつ、なおかつ女性をエロく見せようとすると相当無理なアングルになってきます。おまけに「胸とお尻はできるだけ両方見せるよう描いて」という指令も飛んでくるので、そうすると「これ腰がねじ切れるんじゃないか?」というような無茶なポーズも取らせざるをえない(笑) この業界で生きていこうと思ったらちゃんとしなきゃダメだと思い、とらのあなに並んでいる自分の絵柄に合いそうな作品を、とにかく片っ端から買ってきて「なるほど、こういう風に描けばいいのか!」と勉強したりしましたね。

成年向け漫画の描き込みとかの労力はとんでもないなと、読んでいると感じます。

八十八自分の場合ですが、労力は一般誌の倍かかりました。『ウワガキ』の30pと成年漫画の16~18pに掛かる制作期間ってそんなに変わらなかったんです。とにかく描き込みに時間がかかるのと、アシスタントさんにお願いできる部分が少ないんですよね。背景っていってもベッドのシーツぐらいですし(笑) 自分が頭だけ描いて体だけ描いてもらうわけにもいかないですし、そもそもそんなに描けるアシスタントならとっくにデビューさせてますよと担当さんに言われましたね。

ストーリー作りで苦労したことはありますか?

八十八肝心のサービスシーンをきちんと描くために、起承転結の「起承」に時間を掛けてはいけなくて、なおかつ破綻なくサービスシーンにいかないといけないんですけど、「最初から付き合っているカップルだとか夫婦とかがセックスするのは当たり前すぎるから駄目、関係が始まりそうもないヤツを出せ!」と言われるんです(笑)  「幼馴染は?」「それは便利だから多用は駄目!」みたいな感じでして、そんなだから初単行本はメチャクチャな話が多くなりました。

単行本のラストの巨大化する女の子の話とかは、馬鹿馬鹿しくて自分は大好きでした(笑)

八十八あれはラストに「精液で虹がかかる」っていうのがやりたかっただけです(笑)  当時の快楽天ビーストがギャグ寄りの作品が多いのもあって、面白いことをドンドンやらせるというのが雑誌の方針だったようですね。当時の快楽天本誌のスタッフさんからは「よく通すねこんなもの」と突っ込まれていたらしいんですが、ビーストの編集さんはむしろ誇らしげでした。

作品では着衣エロがなんとなく多かったような気がするのですが、こだわりポイントなのでしょうか?

八十八わりと職業モノが多かったので、じゃあ逆にポリシーにしちゃいましょうという流れで自然とそうなった感じですね。コスプレ的な要素として使えるので、むしろ脱がしちゃ駄目だと。それに服を着ていると画面密度が上げられますし、ごまかしがきくんですよね。「これおかしくね?」という体勢も、服を着せていれば上手いこと誤魔化せるんです(笑)

そのほか、自分のフェチ的なものを作品にこめたりはしましたか?

八十八昔はそうでもなかったらしいんですが、最近は「エロマンガ家」になりたい人が結構多いんだそうです。そういう人達が描くものは本当にエロいんですよね。自分の場合は流されるままに漫画を描き始めていたという感じなので、そういう部分の厳しさが足りないのかなと。正直そういう人達には勝てないという気持ちもあったので、お笑い方向にシフトしたというところはあります。だから意外と、普通のエロマンガに飽きちゃった人が買ってくださるようですね。まったく「使えない」とはよく言われていましたが(笑)

いろいろ成年誌の興味深いお話がお聞きできたと思います!それでは一般誌にデビューするようになったきっかけを教えてください。

八十八単行本を1冊出してから、幸いなことに成人向けに限らずオファーを色々といただいたんです。特にヤング誌が多かったですね。ヤング誌ってセクシーな漫画も多いので、コンビニ販売の成年雑誌は結構チェックされているそうです。 ただ、そのオファーのほとんどが「おっぱいを描いてください」というものだったんです。成人誌だけでなくヤング誌からも「ちょっとエロいラブコメを描いて欲しい」という話が多かったので、お世話になってるビーストさんと同じものを描くわけにもいかないな、ということでお断りしていたんです。 ところがフェローズ編集部から来たオファーがいろいろ変わっていまして。自分に声を掛ける前にビーストの編集部にまず連絡があったんです。それで仁義を通した上で、自分に連絡がありました。そんなことをする編集部は初めてだったのですごく驚いたのと、唯一「おっぱいじゃなく、シリアスな恋愛モノを1度描いてみませんか」というオファーだったんです。 「それならば」と読み切りを描かせて頂いて、そのアンケートが割と良かったらしく、3本描いたところで「次は連載をやりましょう」という話になり、それで動き出したのが『ウワガキ』という作品です。


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