はっとり先生の制作現場!

ネームを切る手順を教えてください。

はっとりまずは編集さんと駄弁りながらの打ち合わせで、おおまかな話のアイディアをメモにとります。それを元に喫茶店に行ってもうちょっとページを割ったプロット、おおよその舞台と誰がどこにいるのか、肝となる台詞だけを漠然と書いておいたものをB5用紙2枚くらいにまとめます。上におおよそのページ数も書いておいて、それをベースにネームを切ります。この見せ場のシーンが大体何ページにくるというのを先に知っておいたほうが、先がわからない状態で描き進めるよりも計算立ててネームを切れるので。そのあとに絵を入れたネームの作業に移っていきます。

ネームを描くときのこだわりのようなものはありますか?

はっとり自分にとっていつもの「ゲン担ぎ」みたいなものとして、自分はネームを描くとき1番最初に「扉絵」を描いてしまいます。扉絵は最後まで残しておく作家さんも多いでしょうけど、自分の場合扉絵が決まると気持ち良くネームが進むんです。逆に扉絵が決まらないとどうにも気が乗らなくて……良い扉が描けると、早くそれを描きたくてネームをテキパキと仕上げようと思うのかもしれません(笑)

それでは、ネームを原稿に起こすまでの作業行程を教えてください。

はっとり下書きの前にネームを1回パソコンに取り込みます。パソコン上で枠線を引いたあと、薄ーくネームの絵を原稿の 紙面に載せるためです。ネームを切ったときとは全然コマ割が変わることもあるんですけど、一応下地にちょこっと置いておくんです。
なぜそんなことをするかというと、ネームで描いた時の絵の方が意外と良かったりすることも多いんですよね。ネームって描いていると気持ちが段々乗ってくるので、そっちのほうが勢いがあって良かったりします。その生理的な「気持ちよさ」を、できるだけ中間を挟まずダイレクトに原稿に取り込んで残しておきたいから、あえてネームを下に置いて下書きを描くんです。ネームだけで良すぎる場合は、下書きも描かずネームから直接ペン入れすることもたまにあります。気持ちが入ってくると下書き並に描きこんじゃって、そのまま原稿に使えることが結構あるんです。

「ペン入れするごとに絵が死んで……」というのは漫画家さんがよくいう嘆きの一つの気がします。それでは現在ペン入れで使っている道具を教えてください。

はっとりペン入れにはフォトショップを使っています。コミックスタジオはちょっと触ってみたんですが、線がスルッといく感じがどうも自分には合わなくて。コミスタは集中線ツールが便利なのであれだけ使っています。
ペン入れが『さんかれあ』から極端に遅くなったんですけど、それはデジタルにしたからです。デジタルのメリットでもありデメリットでもあるのですが、気に入った線が出るまでひたすら描き直せてしまうんですよね。顔の輪郭の線を描くとなったら、描いてはショートカットキーで消して、描いては消して……の繰り返し。運良くいい線が出るまで頑張らないといけない(笑)

他に、デジタルならではのテクニックはありますか?

はっとりペン入れのときは、キャラクターの本体と、顔とほっぺたを別のレイヤーに分けて描いています。顔って本当にデリケートなパーツで、ちょっと位置がズレてるだけで表す感情が変わってしまったりするので、顔だけ別レイヤーにしておいてあとでいつでもいじくれるようにしています。髪と一緒にまとめてしまうと、あとの修正が大変になってしまいます。顔のパーツは細かく修正することが多いというか、全てを管理しておきたいので、細かくレイヤーを分けるようにしています。

先生の作品では、カバー裏などに設定資料集などが大量に掲載されています。連載を始めるまでに、どれくらいの設定資料を書きますか?

はっとり結構書く方ですね。『さんかれあ』の連載前では50枚くらい描きました。没案も含めて、殴り書きしながら固めていく感じです。実際に作品に使われているのに絞ると、20枚くらいになるかと。
自分の場合、設定というよりも半分ネームを切っているというか、イメージボードに近い感じで描いています。できたキーになる設定のなかで、ちょっと喋らせてみたりとキャラクターを一度実験的に動かしてみるんです。「本当にこのキャラクターで動くのか?」という手応えを、連載が始まる前に掴んでおきたくて。
自分のアシさんが書いてくる設定でありがちなものとして、たとえば「元気な女の子」「クールな女の子」ってどれだけ設定として書きこんであっても、どう「元気」だったり「クール」なのかがいっこうに伝わってこないことが多いです。じゃあこの娘が食べ物を食べるとき、どういう風に元気の良い仕草をするのか、この元気なキャラとこのクールなキャラが話すときにはどういう会話をするのか。そこまで落としこんでいかないと、キャラクター設定って意味がないです。
単体の設定だけだと、どんなに詳細に作りこんでも全然動かない。きちんと「生きた」キャラクターを作るために、文字の設定だけではなく台詞として、キャラクターとキャラクターの掛け合いを中心に描くように心がけています。

先生の描く女の子の私服が毎回可愛いのですが、描くときの資料などはありますか?

はっとり昔は女性向けファッション誌を定期購読していた時期もありました。今だとネットの通販で服を売っているサイトをよく参考にします。もともと可愛い女の子を描くのは好きだっていうのもあるし、女の子が見ても「可愛い!」と思ってくれるような服にしたいというのはあります。「こんなの着ないよダサい」とは思われたくない(笑) これは単純に、その人の好みの問題ですけどね。

設定集などはご自身の作品作りに使うのはもちろんのこと、編集さんとの打ち合わせのためにも必要なものですよね。

はっとり自分は、作った資料は嫌がらせのように全部編集部に送っています(笑)
なんでそんことをするかというと、漫画家はまず自分で面白さを編集さんにプレゼンしないといけないんですよね。要するに、漫画家は連載が決まってから作品を考えるのではなく、編集さんにネタを見せて面白がられたら連載のチャンスが回ってくるので、漫画を描く以前にどれだけ編集さんに面白いと思ってもらえるかが大切なんです。作品を作る前には、編集者さんを口説いて納得してもらわないといけない訳です。そのための熱量が高まってくると、ドンドンと枚数が増えます(笑) そういう熱量のようなものを込めることで、そこから何か新しいもの・面白いものが生まれるんじゃないかと思って、ウミショーの頃からやり始めたことです。
でも、結構効果的なんですよね。やっぱり編集さんは漫画家の情熱や、熱量に折れる部分というのは多々あるように感じます。最近の若い子には冷めている子も多いから、2日に1回、「新しいアイディアできた!」と嫌がらせのように編集に電話するような人は少ないようです(笑)

先生は『ウミショー』で週刊、デビュー作の『イヌっネコっジャンプ!』などを掲載したアッパーズでは隔週、そして現在の『さんかれあ』が載る別冊マガジンが月刊と、様々な連載形態を経験されていますが、それぞれの違いを教えてください。

はっとりその3つを全部やった作家というのはそんなにいないですよね(笑) 結論から言うと、自分としては月刊が1番楽しくて、隔週が1番嫌です(笑) 隔週は2週間という日程のバランスが本当に難しくてやりにくいです。1か月って5週月のときもあるから、唐突に1週間休みができたりするんです。結局ダレて、1週間ぼーっと過ごしてしまい、残りの1週間で大慌てで仕上げてしまったり……
週刊だと、月曜日にネームをして、火曜は……という型さえ決まれば、あとは毎週の習慣として回していけるので、週刊連載って意外と楽なんです。自分の場合、肉体的には苦痛ではなかったのですが、週刊連載はむしろ精神的にキツかったです。自分は飽きっぽい性格なので、どちらかというと散らかった作り方をしたいのに、週刊だと自分の手のスピードだとその1本にかかりっきりになって頭が煮詰まっちゃうので、あんまり好きじゃないんです。『ウミショー』の後半はどうしてもネタの繰り返しが多くなって「これ前もやったよなー」と思いながら描き続けるのがしんどくて、精神的にかなりまいってしまいました。
だから今のところ自分には、作業ペース的にも月刊が1番合っているんだと思います。それに月刊は、自分で触れる作業の部分を増やせるのも個人的には嬉しいことです。
隔週でも週刊でもそうなんですけど、アシスタントを大勢使って作品を作っていると、自分がまっさらな紙にささっとペン入れしたものを、パッとアシスタントさんに渡しただけで背景も色も付いて上がってくるということに、ある日ふと違和感を感じてしまうんです。自分で描いているという実感が伴わないのに作品ができてしまう。効率ははっきり言って悪いし、他の作家さんから見ればなんでそんな無駄なことしているのかと思われるかもしれないんですけど、自分は「実感」が欲しいんですよね。アシスタントさん達が嫌いなワケではもちろんないんですけどね。
最近とある仕事で、久しぶりに背景から仕上げまですべて自分でやったのがすごく楽しかったんです。日にちは馬鹿みたいにかかったけど(笑) やっぱり商業漫画家だと、どうしても売り上げなりなんなりも考えないといけないんですけど、そういうのを抜きにしてやっぱり物を作るのが好きなんですよね。
なんだかんだで月刊が性に合っているので、今後も月刊を中心にやっていくと思います。