古今東西の偉人が兵器として蘇り、宇宙から飛来した侵略者と戦う『ノブナガン』。モンスターから神々に至るまで、ありとあらゆる超常現象を押し込めた街が舞台の『エリア51』。そんな独特な設定の物語を、あますことなく伝えきる画力。久正人先生は「絵」と「物語」という漫画の二大要素を、高いレベルで兼ね備えた漫画家の一人だ。今回は久先生に、創作に関するあれこれや、我々大学生にとって、一番身近で気になる、学生時代の話を聞いてみた。

 


奇想天外なアイディアの「ひねり出し方」

久先生の作品作りの特徴として、実在非実在問わず、歴史上の登場人物をストーリーにからめていく作劇法が挙げられます。以前のインタビューでは『ドラキュラ紀元』等から影響を受けたとおっしゃっていました。自分達学生には、馴染みの薄いタイトルなのですが。

『ドラキュラ紀元』というのは、『吸血鬼ドラキュラ』っていうブラム・ストーカーの、吸血鬼モノとしての古典作品がありますよね。それの「ifもの」とし て、ドラキュラがロンドンに上陸したところで、ヘルシング教授が負けて、イギリスを占拠しちゃうという話で。バンパイアが王室などの権力をのっとって、バンパ イアと人間が共存してる世界になってるっていう設定。おまけに、現実世界と同じような時間軸を取っていて、作品内で切り裂きジャックの事件が起きたり、しか もその被害者の女性がみんなバンパイアだったりする。で、物語はその事件を解決する探偵モノなんです。それの面白いところは、バンパイアが一般化してる世界なんで、実際の歴史上の人物が出てくるだけじゃなくて実在の人物までもが、人によってはバンパイアになっていたりするんです。オスカー・ワイルドがバンパイアになってたり(笑) 加えて、古今東西の吸血鬼モノのキャラクターが、その小説に出てきたりするんですよ。たとえば、白黒映画の『ノスフェラトゥ』という映画のバ ンパイアが、ロンドン塔の看守をやってたりだとか。登場人物には全部元ネタがあって、巻末に人物表が載っていて、新しいキャラが出てくると、そこで確認できる。こんなこと商業誌でやっていいんだっていう驚きがあって、これは本当に面白いなと感じました。

初連載である『グレイトフルデッド』の時点で早撃ちキッドとかも出てきますよね。

そう、『グレイトフルデッド』のときそれを考えたんでした。だから孫文が出てくるのも同じ動機で。あと『ジャバウォッキー』のときは、『リーグ・オブ・エクストラオーディ ナリー・ジェントルマン』というアメコミも参考にしました。海底2万マイルのネモ船長とか、ジキルとハイドのジキル博士とか、そういうフィクションのヒーローが集まってチームを組んで敵と戦うっていう話。ヒーローが実存するっていう体でチームを組んでるのが面白かったので、やってみかったんです。

そういう作品作りには、それ相応の知識量が必要だと思うのですが、連載の前に資料を集めたり取材に行ったりしているんですか?

家からほとんど出ることがないので、取材には全く行っていないんです(笑) その代わり、本は資料をいっぱい買って読んでましたよ。たとえば『グレイトフルデッド』のときなんか、上海が舞台だから、資料で町並みの写真とかすごい見るじゃないですか。それで最近上海に行ったら、すげえ見覚えある風景ばっかだ、知ってるとこばっかだ、とまるで何度も行ったことがあるような気分になりました(笑) そういう薀蓄や雑学が自分の勝負できるところかなって思うので、そこを最大に活かせるような話を考えていますね。王道な漫画を描いても他の人に勝てないですから(笑)

資料に当たる際には、まず最初は純粋に楽しんで見るのか、それともネタ探しするつもりで見てるのでしょうか?

それはもう両方ですよ。同時にできるようになってる。ただネタになんないかなって思って見ても、何も拾えないですよ。それにそう都合よく今求めてるものが出てこないですから。もし面白い設定やアイデアの映画あったりとかしたら……たとえば、平山夢明さんという作家の作品で、地図帳が一人称という小説があって。その地図帳を持つタクシードライバーが、実は連続殺人魔で、それを地図帳が観察しながら話が進んでいくという小説なんですが、面白いアイデアじゃないですか。そういう人間じゃないものの一人称で進める作品を何か書こうとしたら、俺だったらどうするかな、とか。だから、直接何かネタを探すというより は、何か独特のアイデアや方向性があれば、「自分だったらこうするな」っていうことを考えてストックにしていますね。基本的にそのとき必要なものを探すのは無理ですよ。

いつか役に立つと思っていたものが、3・4年後に実際に役立ったりするんですね。 

その通りです。蓄えとかなきゃ駄目ですよ。

久先生といえば、どの作品にも恐竜ネタが出てくるくらい、先生は恐竜に関する知識が特に豊富で。そこで色々調べていたところ、先生のお父様は、日本の恐竜イラ ストの第一人者、「ヒサクニヒコ」さんだという、驚きの事実を知ってしまい(笑)  やはり、影響は強かったんですか?

逆に親父がそういう仕事をしてたんで、反発して恐竜を好きにならないようにしてたんですよ。恐竜を最初に好きになったのも、『ジュラシックパーク』を見 てからですもん。だから高1か高2のときかな? それまで全然恐竜のことには詳しくなかったです。『ジュラシックパーク』が公開されたあとに、ホビージャパンで恐竜のジオラマとかたくさん特集してて、それが格好良いなって思ってハマりました。

お父様の仕事が、絵を描くきっかけとかにはなったりしなかったのですか?

もう覚えてないですね。小さいときから描いてるんで。そういう家ですから、もちろん絵を描くことをやめることもなかった。べつに親父の仕事場には入らなかったので、当時の仕事を見たことはないです。後々、仕事として父親が図鑑を描く際に恐竜のウロコとか描かされましたが(笑)

う~む、現実はそうそうドラマティックな「親子継承」の物語にはならないんですね(笑) では、「物語作り」に話を戻しまして。本編以外にも、設定が巻末にたくさん描かれているじゃないですか。それらの設定は資料集のようにまとめているのでしょうか。

ないですね。ただキャラを作る上で、ストーリーの元だけ考えつくってわけにはいかないから、やっぱりバックボーン的なものは細かくはなくても頭にあると思うんですよ。たとえば、この場面でこういう行動をするってことは、これこれこういうバックボーンがあって、こういうキャラになったからなんだな、っていうのがあるわけですよ。それを広げればいくらでも物語はできる。それがないと、行動に正当性がなくなっちゃう。よくキャラが勝手に動くとか言われますけど、そういうふうにしか行動できないんですよ。こういうストーリーにしたいな、というイメージがあっても、このキャラならこうは動かないだろうなぁというのが自分でも分かるんですよね。
逆に、生き残って最後まで活躍してもらうはずのキャラとかも、物語を転がすうちに死んじゃったりする(笑) たとえば、『ジャバウォッキー』のアングレームは死ぬはずじゃなかったんですよ。生き残って、主人公達の仲間になるはずだったんだけど、なんか死んじゃったんだよね(笑)  キャラが勝手に死ぬのが、止められない。

設定の話でいうと、先生の作品に登場するモンスターは、一般的な人が持つイメージからアレンジを加えられていて、素晴らしいと思っているのですが。

たとえば『エリア51』のバジリスクの場合だと、文献に記してある通りに、まずは頭に王冠を載せました。そしてバジリスクと目が合うと死んでしまったり、口や視線自体に毒がある ので常に顔をむき出しにしているのは危険なんじゃないかと思い、普段は隠しているような設定にしました。そうすると王冠に合わせて、騎士のような鎧を思いつきました。その鎧が開くよう なギミックを考えた際に、ウルトラマンのガボラという怪獣が思い浮かび、それを融合させたら今の形になりました。ユニコーンなんかもそうですね。馬って思われがちだけど、実は元の伝説に馬とはどこにも書かれていない。角があって、山羊の顎鬚、ライオンの尻尾を持った四足獣といった具合です。なので馬にする必要はないと感じて、恐竜のパキケファロザウルス――一時期頭部に大きな角があったのではないかという仮説が出たことがある恐竜なのですが――その骨格を アレンジしてユニコーンに仕上げました。

同じ怪物を取り上げるにしても、先生は作品ごとに解釈を変えていますよね。例えば河童なら、エリア51はそのままですけど、『ジャバウォッキー』では、実は恐竜が正体だったという設定がありました。

それは、一時期考えていた河童と天狗の闘争の話が元になっています。
天狗は、ヴェロキラプトルみたいな肉食の恐竜の、人型に進化した種族。カッパはアンケロサウルスとかのヨロイ竜の人型に進化した種族で、戦いあってるみたいな話を考えたことがありました。そのネタ捨てるのもったいなかったんで、ジャバの巻末に小ネタとして入れたんですけど。実際アンキロサウルスとかが半分水に浸 かって生活してたんじゃないかっていう学説があって、そこから浮かんだアイディアなんですね。

お話を伺っていると、アイディアが湯水のように浮かんでくるような印象を受けます。

いや、毎回そこは必死ですよ。なんとしても思いつかなきゃいけないので。アイディア出しは、例えると大きなごつごつした岩があってそれを何かの像に仕上 げる感じですね。最初は何も分からないので適当に削っていく。暫くしたらなんとなく形ができる。そこでアイデアを思いつく感じです。何か思いつこうという 意識を念頭に置いておかないとアイデアは浮かんできませんね。

なるほど。ではこのセクション最後の質問にしたいと思います。漫画家志望者が陥りやすい2つのパターンに、自分が描きたいアイ ディアを作品に詰め込みすぎて話が破綻する、逆に1つ考えついた先から中々話が転がらない、というのがあると思います。それぞれ、どのような対策があるでしょうか?

多分描きたいキャラや設定、世界観がごっちゃになってる人は、アイディアを1個にすれば良いんだと思います。新人は、最初はどうしても読み切りになる じゃないですか。読み切りで、例えばページ埋めようとしたら、アイディアは1個しか入りませんよ。連載の途中の1話だったら、今までの話の流れで説明しなくても良い事も多いけど、読み切りの短編で、といったらワンアイディアしか無理ですから。どれかに絞るしかない。
逆の場合の人は、もっと膨らませないと。40ページにもならないアイディアなんて、アイディアとはいえない(笑) そのアイディアを読者に解るように説明して、なおかつ面白くしようとしたら、どうしたってページかかりますから。