何を考えて漫画を描くか?

それでは具体的な作業の話についてお聞きします。まず、アイデア出しからネームの流れについてお聞かせください。

石黒どこからがアイデア出しなのかというと難しいですね・・・。漫画のネタは常に考えているので、始まりというものがないんですが、ネームをやろう!と思ってから大体3日間くらいプロット、3日目の晩に徹夜でネームにしています。その翌朝に担当に見せてOKが出るとその日の晩から実作業に入ります。実作業に入ってから仕上げまでは大体10日間くらいです。

短編と連載で意識して変えていることはありますか?

石黒基本『それ町』は一話完結なので、あまり短編との感覚は変わりません。ただ短編は設定やキャラクターの説明をその都度しないといけないので、それを省いてもいいという点が『それ町』と他の短編との違いですね。13巻で久し振りに3回に渡る続き物を描いたのですが、あれは毎月話を考えなくても良かったのでとても楽でした(笑)。ちょうどその頃に文化庁メディア芸術祭の賞を頂いたので、自分へのご褒美ということで自分の好きなキャラクターだけで構成していました。楽しかったです。
話が逸れましたが、今後新たに続き物の連載をするとなると、今とはだいぶ感覚が変わるだろうな、と思います。

石黒先生のセリフ回しは独特ですが、何か特別に考えていることはあるのでしょうか。

石黒僕の考えた造語とか言い回しとか、割と注目してもらえるポイントのようですが、自分自身はあまり意識してやっているというところはないです。僕と一ヶ月くらい一緒に生活するとわかると思いますが、僕はあんな風なんです(笑)。元々略語や造語が多いんですよ。中学生の頃にやっていたゲームの女神転生に出てくるピクシーのことを「ピクス」とか呼んだりしていました。それくらい勝手に名詞を省略したり、わざと言い間違えたりしますからね。そういうところを取り入れたり、友人同士で喋った記憶を頼りに書けば、その時々の場面を切り取っただけのような自然なセリフになるんじゃないかと思って。
いつか子供が「でっへーん」って泣き方をするシーンや、カレーを食べたスプーンが歯に当たって「カモ」という音を描いたんですが、これも自分の記憶の中で頭に響いた音をそのまま書いただけなので、意外なほど反応があって驚きました。

どうしてもネタ出しに困ることはあると思いますが、自分の中で原稿に入るための面白さの基準のようなものはありますか?

石黒僕はネームの絵をちゃんと描く方でして、それを漫画として読んでみて、つまらないと思わなければそれを信じて描くしか無い、という感じです。そこでスムーズにと読めないネームは、あちこち直したところで面白くはならないので全ボツにして別の話を考えます。だからネームにしたけど原稿になってない話もいくつかあります。

ネタ出しの際の気分転換などはありますか?

石黒散歩ですかね。視覚を刺激すると脳が活発になるんじゃないかとの自論で、色んな物が目に入る散歩はよくします。室内だとアクションフィギュアをいじる。何て作品のキャラかも知らずに買ったフィギュアを、適当に空想しながらいじってると色々思いつくんですよ。そのため元のフィギュアのイメージを消すために赤いフィギュアを金色に塗り替えたりもします(笑)
あとは、趣味という意味でしたら、音楽を聞いたり小説を読んだりですかね。

石黒先生の作品には似たキャラクターがよく出てきますが、それはなぜでしょう?

石黒単純に、新しいキャラクターを使って名前をつけるのが恥ずかしいんですよ(笑)。感覚としては中二病の頃に自分の設定を作ったり、自分の技の名前を考えたりするのと似ているんです。だから僕の漫画のキャラクターの名前が適当だったりダジャレが多かったりするのは恥ずかしいから、というだけなんです。

『それ町』にはメイン・サブ問わず多数のキャラクターが登場しますが、彼らを動かす上で意識していることは何でしょうか?

石黒その年齢ならではの感覚をキャラクターにちゃんと出す、というのを特に考えています。中学生の頃から「その年齢ごとのリアリティが漫画に必要なんじゃないかな」と薄々感じていたので、その時々に思った事、出来ることの限界、学校内の雰囲気など覚えておくようにしてきました。
漫画的なファンタジーな感じがあまり好きではなくて。例えば自分のことを「ワシ」っていうお爺さんってほとんどいないと思うんですよ。だからそれ町に出てくるようなお爺さんは一人称が「俺」だったり、普通の喋り方をします。自分がこのまま年を取ったらどんな喋り方をするんだろう、みたいなことを考えながら描いています。
『それ町』に出てくるクラスメイトが全員美男美女というわけではないというのもファンタジーを避けたいという理由からで、漫画的な顔をしていなくともだれでも漫画の登場人物になりうるという地続き感を求めて描いています。自分の親の友達の息子がそれ町の教室にいる誰かかもしれない、みたいな。

作画に関して、時折大友克洋先生の姿がチラついて見える気がします。

石黒大友先生は引きの画が多くて、そのヒキでただ立っているような絵が超カッコいいんですよ。それを真似したいがために昔から人を描くときは必ず全身を描くようにしていました。

漫画を描く道具に何かこだわりはありますか?

石黒普段使っているのは下書き用のシャープペンシル、製図用ですね。この太さじゃなきゃ描けないんですよ。いつ壊れてもいいように3本買ったんですけど、未だに一本目が壊れませんね……。何年使っているのかもわからないし、持ち手の部分も錆びて変色してますね(笑)。
以前はGペンを使っていましたが、要は一番良い感じにGペンで引いた時の線が出せさえすれば、ミリペンでも構わないので、これじゃないとダメだ!というのはありません。デジタルの導入は『それ町』が終わったら考えようかな、くらいに思っています。ただアナログの方が好きですね。漫画は紙に描くものだ、という意識が強いので。

資料はどのように使っていますか?

石黒『それ町』の連載が始まった頃は大田区に住んでいて、当時「大田区に住んで大田区を舞台にすれば窓を開ければ資料が!」なんて言っていたんですけど、急に引っ越すことになってしまって。
町の背景は引っ越す前に撮った写真だけが便りです。 人を描くのに資料を使ったことはないですね。昔から人を描くのが好きで、中学の美術部や大学の授業でもあまり静物画を褒められることはありませんでしたが、人体クロッキーだけはやたらと褒められました。その辺を歩いている子供の膝の裏とか、全然大人と違ったりして、そういうのを覚えておいて形にするのが楽しい。
顔を描くときは自分も同じ表情をしているので、『それ町』を描いているときは相当顔が疲れるんですよ(笑)。

今後描いてみたい作品はありますか?

石黒以前講談社の「メフィスト」で描いた『外天楼』に登場した刑事の間宮と桜場で何か描きたいなあ、と思っています。他には部活物とか、まぁ色々と……。

最後に、漫画家を目指す学生に向けて、一言お願いします。

石黒就職しなきゃいけない時期に漫画家を目指し、デビューできなかったりネームが通らなかったりする時期、とても辛いと思います。実際あの時期は辛いんです。全員辛いと思います。今の所僕はその頃が一番辛かった。そこが最初の山です。最悪に辛いものと受け入れてなんとか乗り越えてください。
更に、ちょっと具体的な話をすると、デビュー前にしても連載前にしても、担当とのやり取りの上で何度もネームを直していると自分の描いた漫画が面白いと思えなくなると思います。その作品はおそらく実際に面白くないので、全く別の漫画に描き直したほうがいい。そこで次のアイデアが出て来ず腐るようでは、仮にデビューしたところで毎月毎週新しいアイデアを出し続けていくのはかなり厳しいと思います。
はっきり言って漫画家は辛いです。アイデアを出し続けるのも、締め切りに間に合わせるのも。ただ、それ以上に楽しさが大き過ぎる。毎日が夏休み状態です。僕も読んでくれる人に元気をもらいながらこの魅惑的で危うい道をなんとか今まで歩いて来ました。
お互い頑張りましょう。

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ミウラメモ 「創作者は常に不安や孤独と戦い続けている」という話をよく耳にしますが、本当にその通りなんだな、と思いました。『それ町』のBlu-ray BOXは12月16日発売です。