漫画家が評論活動を行う狙いとは

昨年の冬コミケで『漫画家企業論』を発行したり、ニコニコ動画にてブロマガ・チャンネルを開設したりと、近年大井先生は創作活動だけでなく、評論的活動も積極的に行われています。作家自身がそういった言論活動をする狙いは何なのでしょうか?

大井最終目標としては、アートのお金を海外から引っ張ってくることです。ただこれだけでは、何の事だかさっぱり分からないと思うので、一から説明しますね。
出版業界全体からしてそうですけど、漫画業界も今不況だって言われているじゃないですか。で、その対策としてもっと海外で漫画を売れないかということが議論されている。たとえば、日本の漫画も全部左綴じの横描きにすれば良いと言っている方もいます。ただ、そういうものの多くは根本的な解決にはなっていないと思います。

それは、どういったことが問題なのでしょうか?

大井一番の問題は、「圧倒的に市場がない」という事実がまったく考慮されていないことです。それは漫画の読者が、という訳ではなくて、そもそも本自体を読む人口が日本に比べて圧倒的に少ないんですよ。海外で本を読むのがどんな人達か考えられていないというか、全部日本と一緒だと思っている訳ですよ。日本は江戸時代から庶民が本を読むという異常な民族で、こんな国は他に無いですからね。

そもそも本を読む人口が少ないのだから、増やせる漫画人口の最大値も限られている訳ですね。

大井じゃあ、どうしたら海外で書籍が売れるかといったら、海外でそういうものを手に取るのはハイクラスの人達なんですね。そしてそういう階級の人達と親和性が高いのは、むしろアートの領域になるんです。この層のアート市場というのは、世界的に見れば実は映画の市場よりずっと大きいんですよ。このアート市場に、漫画はコミットしないといけないと思っています。それで、アート市場にコミットするには何が必要かというと、「批評」なんですね。アートというのは、作品を読み解くための批評が無いとアートにはならない。

アートはそれ単体では売れない、文脈や歴史観をいくつも折り込む。それを批評家が読み解くことで、初めてアートとしての価値が生まれる、という説明を、どこかで受けた気がします。

大井でも日本人は批評というものが嫌いじゃないですか。何故日本人が批評を嫌うかというと、批評というのは本来もっとアカデミズムなものであるのに、学校の感想文の延長線ぐらいだと勘違いしているんですね。
それは80年代くらいに、日本には反教養主義の時代があって、教養とかアカデミズムから離れていくことが、表現に関わる者の使命だという風潮が蔓延した時期がありました。そのせいで、ここ何十年かの技術や知識の蓄積が無くなっちゃったことにも原因があるんですね。たとえば漫画批評でよく「視線誘導」という技術が取り上げられますが、そういった視線を動かす・止める技術というのは、アートの領域で既に体系化されています。これをいちいち皆が自分で発見し直すのは、正直無駄な手間ですよね。

とはいえそういった部分も、生まれながら漫画に親しんでいると問題なく読めてしまうので、気にする人は少ないですよね。

大井日本人はそれを自然にやっちゃうから、なんて事ないものだと思って言語化しない。でも言語化しないと、日本人以外の人には分からない訳ですよ。 誰かがその内、その辺りを分析してくれる批評を作ってくれるかなと待っていたんだけど、誰もやってこないしその間に村上隆さんがガンガン金を儲けている(笑)。
僕は村上隆さんのことも好きなんですけど、あの人だけしか漫画文化などをマネタイズ出来る人がいないのはキツい。あの人とは別の形でもう一つ、漫画の世界を完全に理解した批評があれば、そちらからも海外のアートクラスに接触が出来て、そこからマネタイズが出来るかもしれない。自分は、「ここ」を作りたいんです。
ただこれをやるには、僕一人で何か言っていてもしょうがないし、僕にはどこかの大学で教授をしているといった、一般の方にもわかりやすいバックボーンが無いので、とりあえず「批評も出来る漫画家」であることを証明するため、ブロマガを配信したり同人で批評誌を作ってみようかなと思った訳ですね。こういった活動を続ければ、最終的にさっき言ったアートの世界にも接触出来るかなと。ものすごく長いスパンの話なんですけどね(笑)。

 

今回のインタビューで、ロリから熟女もの、SFから批評活動までと、多岐に渡る大井先生の活動の一端に触れられていれば幸いです。それでは最後に、一応我々は学生団体でありますので(笑)、漫画家を目指す学生の方へメッセージを頂けたらと思います!

大井作家さん同士でもよく言っている話なんですけど、「漫画家になりたい」んじゃなくて、「こういう漫画を描きたい」という気持ちがなければいけないと思います。
それと、「悩んじゃダメ!」ということですね。新人の頃が一番ツラいし色々悩むのは、僕も辛かったのでよくわかる。ただそういうのは、解決法がわからないから悩むんですよね。一度わかってしまえば悩まない。それこそ脚本術とか、理解すれば済むものはさっさと覚えれば悩まず済みます。あれこれ悩んでいる時間は本当に無駄だし、悩むぐらいだったらどんどん漫画を描き上げていった方が、上達は早いと思います!

ありがとうございました!

ooi

 


せんちゃん(眉ほそ)あたたメモ
 ジャンルの枠に捉われず、様々な作品を描き上げることができる秘密は「脚本術」の習得にあったのだと感じました。学生漫画家志望者の方も、学んで身に付く技術ならドンドンと取り入れていくべきですね。また、なんといっても大井先生の「漫画家兼任批評家」の活動は今後大注目です!日本の漫画が新しいステージへと進むことを、一漫画ファンとしても切に願っています。


 

文責:あたた(@atatakeuchi)