『おくさん』のバストサイズには綿密な計算があった!?

他『ちいちゃんのおしながき』について

『先生のフェチがたっぷりと詰まっている、というお話が出てきたので早速『おくさん』についてお聞きしていきます(笑)。『おくさん』を読んでいて気になったのが、「三十歳台の女の人を可愛く描く」という視点です。いわゆる熟女系だと、経験豊富でエロいお姉さん、というキャラ付けをされることが多いじゃないですか。

大井自分の中ではむしろ普通の感覚だったんですよね。三十歳の女の子カワイイじゃんというか、「三十歳前まではまだ子供」っていう感覚だったので。

三十歳を越えてからはじめて「女の子」になる訳ですね?(笑)

大井それが僕の中では世界の真理としてある訳ですよ!自分はただ女の子を描いているだけ。女の子を可愛く描くのはむしろ当然でしょ?という(笑)。「あいこ」を描いている時から「熟女を描きたい」と編集に主張していましたからね。その頃は「売れないから」ってけんもほろろでしたが(笑)。

しかし、現に『おくさん』という作品が描けているということは、転換点があったんですね?

大井時代が来ているようだから、そろそろ行けるはずだと。その判断になったのが、実はエロ漫画なんです。漫画の絵の流行はエロから来ることが多いので、エロ漫画を読んでいると、次に何が来るのか分かるんですよ。ちょうど『おくさん』の連載が始まる前から、成年誌で熟女ものが増えている傾向を察知したので、おそらく三、四年経ったらこれが一般誌でも出来るようになるだろうと踏んだんです。
その頃ちょうど『よつばと!』も出てきて、「ああなるほど、キャラクターにスポットを当てた作品というのはこういう風に描けば良いんだ」というのも分かったので「これはイケる!」と。

『よつばと!』は、同じ日常もの系列なので腑に落ちるのですが、エロマンガも根底にあったのは意外でした。

大井漫画に限らず、表現にとってエロは本当に大事です。だからエロを禁止するみたいな流れが周期的に起こりますが、本当に良くないですよね。日本の漫画家というのは、一般向けの人を含め、大体エロ漫画を読んで「カワイイ女の子はこう描けば良いんだ」と勉強しているんです。エロ漫画には、作画の勉強的な意味でも皆大変お世話なっているはずなんです(笑)。映画だって、ポルノ映画から名監督が出てきたりする訳ですし、その部分を何とかしようというのは、なんというか教養が足りないですよね。

「エロがわからないのは教養がない!」良い言葉を頂きました(笑)。エロ、といえば主人公の沖田恭子さんのバストサイズが107cmという、大変男性を引き付ける設定となっていますが、あの数値はどうやって決められたのでしょうか?

大井あれはキャラクター性に準じてですね。巨乳キャラというのは大前提だったんですけど、いまどき90cm台じゃパンチ力が足りないだろうと思って、とりあえずメーターは越えようと。とはいえ101cmじゃギリギリ越えただけの感じがして面白味がない、しかし108、9cmまで行くとデカすぎて数字に迫力が付きすぎちゃうし、110cmを越えると僕は嬉しいけど、読者には早すぎるかと(笑)。それに106cmぐらいまでだと、何だかまだ甘えている感じがする。
そういった綿密なシュミレーションの末に、「107cmだ!」となりました。いやー、あれは久しぶりにちゃんと悩んで決めた設定でしたね(笑)。

う~ん確かに言われてみると、ギリギリ自分達の周りにいてもおかしくないと思えるような、絶妙な数値ですね!

大井万が一有り得るかもしれない夢の数字ですよね。『おくさん』はお隣の苗字を間違えてしまうぐらい緩~く描いていますが、あの数字だけは超考えました。

お隣さんの名字については、某お絵かき投稿サイトでもその問題が言及されていましたね(詳しくはコチラ)。結局のところ、どちらが本当なんですか?

大井えー、どっちだったけかな……すみません、ちょっと待っててください。
(大井先生、おもむろに席を外しアシスタントさんの所へ向かう。)
……分かりました、「九坂」の方です。

問題は決着が付きました!お隣さんの名字は九坂です!

大井いやお恥ずかしい。というかたまに出すからいけないんですよね。出さなければこんなことは起きなかった(笑)。

わははは(笑)。出さない、といえば、恭子さんの夫である「だーさん」は、顔も本名も出さない設定になっていますよね。

大井あそこにちゃんとした固有のキャラクターを出すと、恭子とだーさん、二人の関係性の話になっちゃうんですね。あくまで恭子だけにスポットを当てる話にしたかったし、「皆の『おくさん』」になって欲しい、そして読者であるあなたのおくさんでもあるんだよ、というように感じて欲しかったんですよ。
ある意味、『トムとジェリー』方式ですね。あの作品には、トム達を追い回す黒人の家政婦のおばさんが出てくるんですけど、彼女は手元足元しか出てきません。話には関わってくるけどキャラクターではなくて、ただの設定として機能しているだけなんですね。だーさんも、「恭子には旦那さんがいる」という設定を表しているだけであって、どこの誰という事はあまり関係ないんです。

なるほどあくまで話のスポットを恭子さんに当てるためだったのですね。
それ では次に、『ちいちゃんのおしながき』について。現在先生の中では一番の長期連載作品になっている代表作ですね。まずは、4コマにおける作業工程について教えてください。

大井最初に確認するのは、次に描く雑誌の月号です。9月号だけど描くのは7月だったりするから、季節をズラさないように(笑)。そこを間違えると本当に大変ですからね。次は、9月といったら何だろう、台風かな、いやお月見かなという感じでお題を決めます。お月見だったら、団子も使えるしそばの卵も使えるなとか考えつつ、ちいは小学生だから、小学校だったら運動会とかもあるかな。そうやって出てきたネタ同士を、今度は月見と運動会で何かかかるかなとか、そんな風にダジャレみたいな感じで、どんどんと繋げていきますね。

毎回のお題を決める基準は何ですか?

大井過去の二、三年のお題と照らし合わせて決める感じでしょうか。クリスマスは去年やった気がするから、今回は目線を変えて大晦日かなとか。その辺りは、主人公のちいがうまい事キャラクターを作れたので、あまり悩まなくてすむ所がありますね。

作者的にちいちゃんは、非常に有難いキャラクターなんですね。

大井ちいが万能すぎるんですよね。何でも良いから最終的にちいに振っておけばなんとかしてくれるので(笑)、逆に常連キャラに振りすぎて収拾がつかなくならないよう気を付けています。ちいは本当、若い頃でほとんど何も考えずに作ったわりには、デザインも含めて非常に上手くいったキャラクターですね。

キャラクター作りのコツって何かありますか?

大井キャラクターはまだ全然分かっていない所があるから、偶然任せに近いですね……キャラクターデザインはシルエットでパッと分かるのが大事、というのも後から知ったぐらいで(笑)。かといってシルエットを意識しすぎるとかえってゴテゴテしてしまいますし、その辺のバランスはまだちょっとわからない。実際にやってみないとわからないというか、キャラクターの作り方は本当に分かるようになるのかな?というのが実感です(笑)。

「ちいちゃん~」は料理漫画の側面もありますが、漫画で料理を美味しく見せる工夫などは何かしていますか?

大井最初の内は描き方が分からなかったから、手当たり次第料理漫画を読みましたね。とりあえず『美味しんぼ』とかリアル系のものは真似するもんじゃないなと思い(笑)、自分のように、絵自体で美味そうに見せれない人はどういう風に描けば良いのかな、自分でも真似出来る人誰かいないかな?と探していた時に、ラズヴェル細木先生の『酒のほそ道』を読んで、自分はこの系統かもしれないと思ったんです。

どういった点に注目されたんですか?

大井料理をきちんとデフォルメして描くことですね。お刺身とかで新鮮なところは、テカった感じにするとすごく新鮮に見えるとか、冬の料理だったら湯気をいっぱい描くと温かい料理に見えるとか、そういう記号的な部分です。あとは料理の絵だけはちょっと密度を上げたりしてメリハリを付けて、このページでは料理が主役ですよ、みたいなのを読者に印象付けたりとか。料理もキャラクターの一部なんだと思いながら描くのが大事って事ですかね。

「ちいちゃん」は今年で連載10周年を迎えました。次の10年も視野に入れつつ、今後の目標を教えてください。

大井後はもう、死ぬまでやるだけでしょう(笑)。終えようと思えばいくらでもストーリーの終え方はあると思いますが、でも今更オチ付けてもしょうがないですからね。ちいは終わらないのが目標です!