小学生が主人公の作品から「熟女もの」作品、ほんわか日常ものから超巨大ロボットが登場する本格派SFまでと、様々なジャンルの作品を手掛ける大井昌和先生。先月には連載10周年を越えた四コマ漫画『ちいちゃんのおしながき』10巻に、32歳の「カワイイ」奥さんを描いた『おくさん』6巻が発売され、さらに今月27日には『起動帝国オービタリア』2巻の発売を間近に控えている。六作品の連載を同時に手がけながら、さらに近年は漫画執筆だけに留まらない「とあること」にも力を入れだしているらしい……!?驚異的なバイタリティーで様々な活動に取り組む大井先生の全体像に迫る!

1章:漫画家志望者はハリウッドの脚本術に学べ!
2章:大井先生の師匠直伝、「連載の取り方」とは!?
3章:『おくさん』のバストサイズには綿密な計算があった!?
4章:大井先生が描く巨大ロボットものの新境地!『起動帝国オービタリア』
5章:漫画家が評論活動を行う狙いとは


漫画家志望者はハリウッドの脚本術に学べ!

漫画を本格的に描き始めたのはいつ頃ですか?

大井昌和先生(以下大井)漫画をちゃんと描こうと思ったのは、大学二年生ぐらいからだったと思います。一年生の頃が絵に描いたように暗い大学生活だったんで(笑)、「大学辞めてぇ」と思いまして……とはいえ、仕事してご飯は食っていかないじゃないですか。その時に、やりたいと思えた仕事が漫画家ぐらいしかなかったんですね。子供の頃は科学者か絵描きになりたかったものの、自分才能の無さを感じて諦めていたんですけど、その二つの経験を活かせるのは漫画家なんじゃないかと思いまして。

どちらかというと描き始めは遅めなのですね。そこから、どうやって漫画の描き方を覚えていきましたか?

大井当時はインターネットもない時代だったので、完全に手探りでしたね。漫画用の紙がわからなくて、雑誌の新人賞の要項を読んでみたら、ケント紙か画用紙と書いてあって、「なんだ画用紙でも良いんだ」と画用紙にミリペンで描いてみたらすっごい滲んだり(笑)。でも知識がないからこんなもんなんだろうとそのまま出版社に持っていっちゃっいましたね……それでも有難いことに、賞に引っかかって五万円頂いてしまいましたが。

そ、それはすごいですね。ちなみに、持ち込み先はどのように決めましたか?

大井まだ始まったばかりの『ベルセルク』を読んで「これは今日本で一番面白い漫画だ!」と思って白泉社に持って行ったり、SFが描きたかった、というか新人時代はSF以外描く気が無かったので(笑)、SF描かせてくれそうなところということで、当時コミックガオで『銀河戦国群雄伝ライ』を載せていたメディアワークスに持って行ったり。ものすごく単純な動機で決めていましたね。

好きな作品が載っている所に自分も載りたい、と考えていた訳ですね。

大井これ、本当は良くないことなんですよね。本来新人は、みんな「少年ジャンプ」に持ち込みに行くべきだと思います。

と、いいますと?

大井実はデビューする難しさってどこの雑誌でも一緒なんですね。既に連載を持っている先生達と張り合って連載を取る困難は、新人にしてみればどの雑誌に行ってもそうは変わらない。むしろ、ジャンプには新人枠がある分まだ希望が持てます。出版不況もありますし、とりあえず新人を試してみようという余力がある雑誌は今ジャンプぐらいしかないですからね。だったらまずは、一番お金になる可能性がある所に行った方が良い(笑)。

確かに、ジャンプで毎年定期的に入れ替わる「新連載枠」というものは、他の雑誌にはない制度ですね。それも毎回、3作品近くが入れ替わりますし。

大井ちょっとひねた漫画オタクって、最初はジャンプをちょっと下に見るじゃないですか。僕も若い頃はそんな漫画オタクだったから、「ジャンプよりちゃんと面白い漫画描くぜ」みたいな青臭いこと考えていて(笑)。もちろん今ではめちゃくちゃ尊敬しています。これを読んでいる学生の皆さん、まずはジャンプへ持ち込みに行きましょう!

具体的なアドバイスありがとうございます!(笑)。とはいえ、大井先生が持ち込まれた先で、何か良かった点ももちろんありましたよね?

大井メディアワークスの編集部に持っていった時の担当さんが、ものすごくロジカルに教えてくれる方で、自分もロジカルに描きたいと思っていたので、その人から受けた影響はすごく大きいですね。

具体的にはどういう事を?

大井一番は脚本の書き方を教えてもらえた事ですね。「脚本のシステマチックな書き方というのは既にハリウッドが完成させている。だからハリウッドの脚本の本を二、三冊ぐらい読めばすぐ書けるようになるから、まずはそれを読んで勉強しろ」と。確かに読むと、ははあ脚本ってこういう構造でできているんだというのがわかって、それからはスラスラと書けるようになりましたね。そうやって、作品を作るという事にも考え方みたいなものがあるんだというのがわかって、その考え方を自分の中で漫画に応用していけば、ほぼ何でも描けるなと。
手前味噌にはなりますけど、新人さんはまず脚本の書き方を覚えてしまった方が良いと思いますよ。

それはどうしてでしょう?

大井脚本がコンスタントに作れるようになったら、他の作業に余力が回せるからです。脚本というのは勉強さえすれば書き方を覚えられるし、コツさえつかめば一話二、三時間で書けるようになります。脚本でうんうんと悩まなければ、漫画家としての魅力を高める努力、たとえば絵の練習や今の流行りを勉強したり、それこそ作家性を上げていくことに全勢力を注げばいい。逆に話を考える時に、いちいち「自分の中から湧き出てくる何か」みたいなのを待っていたら、それこそお話にならない訳ですよ(笑)。

キチッと勉強すれば覚えられるものなら、さっさと覚えた方が得、ということですね。

大井正直、最近僕は脚本というのを全く重要視していないんですよ。というのも、脚本は只の技術なんですね。
自分がよく引用させてもらっている言葉で、作家の岡田斗司夫さんが言っていたことがあります。あの人って元はガイナックスの創設者でアニメ畑の人なんですけど、岡田さんが言うに、アニメ業界で脚本家というのは「どぶさらい」の人だと。アニメの脚本家がやることはほとんど、監督や演出が言っているアイディアを、ひたすら脚本という形にまとめるだけなんですね。ものすごく大変でひたすら面倒臭いばかりの仕事だから、やりたがる人は実は少ない。

根幹にあるのは「アイディア」であって、脚本はそのアイディアを過不足なく伝えるためのツールなだけだと。

大井魅力的なキャラクターとか世界観を作る方がよっぽど大事です。ところが、多くの人は脚本に作家性やら魂やらが宿ると考えているんですね。そこを勘違いしているから、新人さんは脚本でうんうん悩むという無駄な努力をしちゃう。脚本は、構成さえ合ってれば良いんです。

作家性やオリジナリティを出そうと思っているのは、むしろ構成が破綻してるだけというか……

大井そうそう。それに脚本に頼らなくて良い時に良い物が出来る。脚本の話は個人的なテーマというか、脚本が必要以上に高く評価される世界は積極的に壊していきたいなと思っている所なので(笑)、ついつい長くなってしまいましたね。