『コミックIKKI』誌上において『ガギグゲキッコ』でデビューを果たしたのち、『ビッグコミックスピリッツ』にて実在に存在するプロジェクト「下町ボブスレー」を題材とした『黒鉄ボブスレー』を連載し、最終3集が先日発売された。熱いタッチとストーリーで読者の心を掴んで離さない土屋雄民先生に、これまでの作品の創作秘話とこれからの作品の展望を伺った。


ネームは大事ですよ

まず最初に、漫画を描き始めたのはいつ頃でしょうか?

土屋雄民先生(以下土屋)初めて描いたのは小学1年生くらいの頃だったと思います。4コマ漫画だったんですが内容を今でも覚えていて、「格闘家がサンドバックを蹴り上げて、一息ついたらサンドバッグがその格闘家の上に降ってくる」という、至ってシンプルなものでした。
ストーリー漫画を描き始めたのは小学4年生くらいでしょうか。

ずいぶん早いうちからストーリー漫画を描いていたんですね!

土屋それまではずっと4コマ漫画を描いていたんですが、中学生になってから「漫画家になるためには読み切り漫画が描けないとダメ」ということがわかって、それから勉強を始めました。おそらくそのタイミングで改めて漫画家を志したと言える気がします。ストーリー漫画ではゲームや他の漫画など、その時流行っていたものをいろいろ取り込んで描いていましたね。

例えばどういったものが題材になったのでしょうか?

土屋スーパーファミコンの『聖剣伝説3』というゲームがあるんですが、当時の僕はその作品に登場する「獣人」という民族に憧れていたんですよ。
また同時に読んでいた漫画が『ベルセルク』で、その二つに強く影響されたようなファンタジー漫画を描いていました。
人間と獣人の争いを描いたものだったんですけれど、主人公の獣人が人間に自分の娘を殺されて人間族を滅ぼそうと立ち上がる話です。それが36ページくらいだったかな。たぶん実家に残ってると思うんですけど、流石に人には見せられないです(笑)。

小さい頃は他にどんな漫画を読んでいたのでしょうか?

土屋小学校の頃はボンボンを読んでいました。周りは当然コロコロ派が大多数だったんですが……。『サイボーグクロちゃん』や『大ドロボウJING』など、ボンボンにはコロコロと比べて重厚な漫画が多かったんですよ。コロコロやジャンプ、マガジンを読むのは友達の家に遊びに行った時くらいでしたね。
そのうちに今度は父親がビッグコミックで載っていた『墨攻』の単行本を持っていたので、それを一緒に読んでいました。そういう深いストーリーの漫画は、ボンボンに載っていた作品のおかげで読めたのかもしれないですね(笑)

では、初めて持ち込みをしたのはいつでしょうか?

土屋初めて行ったのは中学生の時にやっていたジャンプスカウトキャラバンだったんですが、評価は良くないけど形にはなってるんじゃないかな、といった感じでした。それで「漫画が上手くなるにはもっとストーリーが作れなきゃいけないんだ」と思うようになって、そこからはずっとネームを描いていました。

高校の頃はどうしていましたか?

土屋当時は美術部という名のただ遊ぶだけの部活に所属していたんですが、その顧問の先生がとても面白い人でした。スキンヘッドに年季の入った革ジャンとゴツいシルバーアクセを身に付けて出勤してくるモーターサイクルギャングみたいな人で、それなのに表情や物腰は柔らかいという……。そういう先生や友達と何をやっていたのかというと、普段は教室で喋るだけなのに、文化祭の時だけ本気になって巨大看板やオブジェを作っていました。なんだかんだで泥臭い青春時代だったと思います。
もちろん漫画も描いていたんですけれど、中学の頃に得た教訓から3年間ずっとネームを作っていたような気がします。ろくに授業も聞かないで(笑)。友人にはお笑いやサブカルに詳しい連中がいたので、その辺りにもどっぷり浸かっていましたね。

ずっとネームを描いていたんですね。

土屋ちゃんと出版社に持ち込んだのは大学生の頃ですね。それまでネームをひたすら描き続けていて原稿用紙には全く描かなかったんですけど、大学生になってからはいよいよ就活をしなければいけないという時期が来まして。その就活の一環としてきちんと一本描き上げて、IKKIに持って行きました。その作品がうまいこと選考に引っかかってデビューしました。

講談社のアフタヌーンではなく、小学館のIKKIだったんですね。

土屋アフタヌーンは……なぜか頭に無かったんですよ、高校生の頃にちょうどIKKIが熱い時期でアフタヌーンより先に読み始めてしまったからかもしれない。『ドロヘドロ』『RIDEBACK』『ぼくらの』『フリージア』が現役で、読み切りも逐一面白かった。大学生になってアフタヌーンも読み始めたけど…やっぱり憧れの雑誌で!という勢いもあったんじゃないかなぁと思います。

漫画以外に刺激を受けたものはありますか?

土屋大学が映像系の大学だったので、映画をよく見ていました。刺激を受けた作品、というのを名指しで挙げるとはキリがないんですが、何かしらの影響は受けていると思います。
他にはゲームでしょうか、『サイレントヒル』というシリーズ作品がありますが、スティーブン・キングやデビッド・リンチの映画のようなのエッセンスが入っていて、すごく好きでした。オカルトを知るようになったきっかけでもあるので外せないですね。僕の作品にそのまま反映されているというわけではないですが、哀しいのが好きなんです。