白泉社『楽園 Le Paradis』にて突如デビュー、去年の7月には初単行本となる『成程』を発売。他の漫画家とは誰とも似ていない独特の絵柄とキレのあるようでどこかズレている台詞回しを巧みに使った、オンリーワンな4Pのショート作品を次々と生み出している。そんな「謎すぎる漫画家」、平方イコルスン先生にマンガラボが初のインタビュー取材を敢行!ついに先生の隠されたヴェールの一端が明かされる(のか)!?

漫画以前は小説家を目指していた?

作品からは、先生ご自身がいったいどういった経緯をたどって今に至るのかがまったくわかりません……ですので、順を追ってデビューまでの流れをお聞きしたいです。

平方イコルスン先生(以下イコルスン)漫画を描く前までは小説を書いていました。小学生のとき、書いた作文をすごい褒めてもらったのがおそらくきっかけかと思います。絵については、自分の小説を同人誌として出すときに表紙などを描きだしたのが人に見せる絵を描くよう意識しだしたきっかけかもしれません。

小説はどういったものがお好きだったんでしょうか?

イコルスン日本の近代文学、とくに自然主義の人達からはかなり影響を受けました。
自然主義の人達ってよく馬鹿にされるというか、歴史に名が残っている作家達に比べると拙いという評価が多いんです。僕は田山花袋がすごく好きなんですが、自分が言うのもあれなんですけれど、決して「上手くない」。同じ表現を何回も使い回したりしますし。とにかく下手だけど書かずにはいられないというスタンスです。今だと『蒲団』とか『田舎教師』以外ほとんど読まれていないと思いますが、あの人は全集にまとめたら20数冊になるぐらい、ものすごい数の小説を書いているんです。通っていた大学に揃えてあったので自分はすべて読み通したのですが、贔屓目でみても7割くらいの作品は面白くない(笑) ただ、それだけ読んでいると田山がどれだけ自然を愛しているのか、どういうことを彼は書きたかったのかが伝わってくるんです。

田山花袋に相当傾倒していたんですね。

イコルスン自分は『田舎教師』を読んだのがきっかけで、小説を書くのにはまっていった感じです。はじめて読んだのは高校生のときだったんですけど読んでいる最中は正直面白くなく、しんどくてしょうがなかったです。それが、最後まで読み終わった途端にそれまで「これ必要だったんか?」と思っていった風景描写が、自分の中にどっと押し寄せてきたんです。
ある批評家の方が、「とにかく田山は下手だ。他の作家だったらこの半分の量で人を感動させられるだろう。ただ朴訥とした様子で、人からしたらどうにもならないような風景の積み重なりを、この長さと分量でできたからこそ他の作品にはない感慨が残る。」と評していまして、自分もこんな小説はないなと感じていました。

フリーペーパー/pixiv時代。そしてデビューへ。

同人活動を始めたきっかけは?

イコルスン小説家になりたい気持ちはあったんですが、プロになるにはどうすればいいのか全然わからなかったんです。何度か新人賞に投稿しても全然ダメだったせいで手応えがまったく掴めなくて、これではちょっとモチベーションを保てないなと思っていました。それで同人活動を始めたんです。

同人活動ではどういったものを発行されていたのでしょうか。

イコルスン自分の小説をまとめた本を出そうと思ったんですが、それだけで勝負しても絶対に埋もれると思ったのでフリーペーパーを作ろうと決めました。
自分が同人活動を始めた頃は、ちょうど個人のフリーペーパーが面白い時期だったんです。東京でいうとタコシェさんや模索舎さんとかでたくさん取り扱っていましたね。東京に旅行みたいな感じで出てきたときに、その辺りのフリーペーパーを読んで衝撃を受けたんです。
自分の小説も、読む人がいるとするならおそらくそういったフリーペーパーを読む人と客層がある程度被るだろうと思って、同人誌とあわせてフリーペーパーも数百部刷り、関西と東京のイベントに参加するというのをしばらく続けていました。

フリーペーパーのどういったところに感銘を受けたのでしょうか?

イコルスンさきほどの自然主義の話とも被るんですけど、多くの人に向けて整えられたものは自分の場合そんなに好きになったことがなくて。フリーペーパーの、いってしまえば「他人からしたらどうでもいいもの」を、タダでもいいから発信せざるを得なかったその人の切実さに惹かれたんです。当たり外れはその分すごく大きいですけど、当たったときの喜びは大きかったですね。

ちなみにそのフリーペーパーの内容はどういったものを?

イコルスンもう本当に適当ですよ。そのとき思ったことをつらつらと書いたり……あとそこで描いたのが1番最初の漫画です。漫画を描きたいという気持ちは以前からあったんですが、ずっと封印していたんです。タダなんやから一つぐらい俺のやりたいことをやらせてもらうぞ、と載せていたのが漫画でした。

2010年の夏頃からpixivにイラストや漫画を挙げていますが、はじめられたきっかけは?

イコルスンある日掃除をしていたら、高校のときに買ったものすごく安いペンタブレットが10年越しぐらいで出てきたんです。これで何か描きたいなと思ったときに、ウェブで公開されている2次創作漫画を読むのは昔から大好きで「読む専」としてpixivは利用していたので、フリーペーパーよりも趣味の領域として描き始めたんです。(イコルスン先生のpixivアカウント)

そんな中初投稿であげられた『けいおん!』の2次創作は、いきなり1万ビューを超えています。(こちらがその作品)その数にも驚きますが、先生の作風からはアニメも観ていらっしゃったんだという驚きも……

イコルスン閲覧数についてはまさかああなるとはとずっと思っていましたし、今も思っています。
あの時期、アニメは結構観ていたんです。端からだとアニメ好きの方達がすごく楽しんでいるようにみえて、なんかズルいな、その楽しさを俺にもよこせって感じで。
とにかく『けいおん!』を観たときは、「よく人を見ているな」と感じることが多くてかなり驚きましたね。たとえば『けいおん!劇場版』で自分が1番驚いたのが飛行機に乗っているシーンで、平沢唯が中野梓にたしなめられている最中に椅子の肘掛を上げるところ。ストーリー的にははっきりいって無駄なワンシーンなんですけど、唯なら絶対にそういう行動するわって思わせられるんです。普通ならあれを描こう、ここをこう動かしてっていう指示を出そうとは思わないでしょう。しかも映画ですよ?あれにはぞっとしましたね。してやられた!と思いました。

その部分に注目するイコルスン先生の観察力もすごいです!

イコルスンほかにもアニメで例を出すなら、ジブリの『もののけ姫』の中で悪党のジコ坊が、最後の方にアシタカとサンと一緒に岩の上でデイタラポッチに囲まれるシーンが自分は好きです。アシタカとジコ坊が話をしているときにサンが食ってかかる。普通の人だったら絶対、「うるさい小娘」みたいに怒るはずなんですが、ジコ坊はサンに向かって一瞬笑うんです。そのワンカットでジコ坊が、それまでどれだけ姑息な生き方をしていたかが一発でわかる。あの一瞬のカットを入れようと思う人間は、そうそういないと思います。あれを見た瞬間自分は打ちひしがれました。絶対これは超えられへん!と。

次第に、先生がどのような部分にこだわって作品を作っているかが分かってきたような気がします。

イコルスン自分はなるべくその人達の「当たり前」を描きたいんです。お話として無駄なところがあることで、逆に説得力がでてくれないかなと。まだその域には達していませんが、受け手として1番好きだなと思うのは、ある出来事を「観察」している感じが出ている作品です。そのあたりも自然主義から学んだというか、そういう描写から現れてくる感動というのがすごく好きなので、それを再現したい、再現できなくても似たところまで表現したいという欲求は多分かなり強いと思います。

それではこの節の最後に、デビューのきっかけを教えてください。

イコルスン2次創作をpixivでやっていたおかげで、ライターのたまごまごさんが作っていらっしゃる合同誌に誘われたんです。「俺なんかが描いていいのか」と、その時点で自分はかなり冷や汗かいていました。その合同誌を「楽園」の編集長が読まれていたんです。いきなり電話がかかってきて、「ひとつやってみない?」ということで描かせて頂けるようになりました。

声がかかるまで、自分が漫画家になれると考えていましたか?

イコルスンまったく思ってなかったですね。それまで小説なら書きたいものが自分の中にあったんですけど、お話をもらうまでは漫画で描きたいものはこれといって自分の中にはなかったし、自分が何を描くべきかというのを考えたこともなかったんです。それに「俺なんかが漫画を描いて良い訳がない」とも思っていましたからね。なので、声を掛けて頂いた方達には言い尽くせないほどの恩を感じています。


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