『琴浦さん』が4コマな本当の理由

サイト運営と合わせて同人誌での活動もされていたようですが、始められたきっかけはなんだったのでしょう?

えのきづお絵かき掲示板の中で知り合った作家さんの多くが同人活動をやっていたので、それに影響されて始めました。といっても最初の内は自分で1冊本を作りきる気力も無く、仲間内で年に1回合同誌を出すくらいで、個人誌を出し始めたのは大分後になってからなんです。

サイトの同人誌情報を見ると、2007年が個人誌としては一番古いようです。2007年といえば、後にデビュー作となる『琴浦さん』をご自身のサイトで公開され始めたのもその年ですよね?

えのきづそうですね、同じ時期だったと思います。

その年からコミティアに毎回参加されるようになったりと、積極的に漫画を作りあげていくようになったようです。何か先生の中でターニングポイントがあったのでしょうか?

えのきづそれはね、ありました(笑) ちょうどこの頃に、コミティアに初めてサークル参加したんです。その時は全然売れなくて、なんと2冊しかはけませんでした(苦笑) それがすごくショックだったし、知り合いの作家さんにも「お前何やってんだ」と呆れられたり色々言われたりしましたね。

差し支えなければ、その「色々」を具体的に教えてください。

えのきづとにかく同人スキルというものがまるでなかったんです。まず指摘されたのが、表紙が地味すぎること。スペースの机が茶色なのに、表紙の色が茶色の本を作っちゃって(笑) おまけに普通だったら机の上に布なりなんなりを敷くものじゃないですか。そういうのも全然やらずに、そのままドンと机に本を並べて、値段も手書きで書いて置くだけという感じでやっていました。とにかく本の中身というよりも、周りの見せ方が良くないと。売れなかったのはそっちの方が大きかったですね、中身以前にまず手にとってもらえない訳ですから。
とにかくやるからには、もうちょっと頑張らないとという気持ちになって、真面目に漫画を描き始めたのがちょうどその頃ですね。

そんな中描き始めたものの一つが『琴浦さん』だった訳ですね。以前のインタビューで元は練習用として描き始めたと仰っていましたが……

えのきづそうですね、コミティアに参加して、より多くの人に手に取ってもらえる本を作るための練習用として最初は描き始めました。まずは漫画を描くことに慣れないとまともなページすら描けないだろうということで、最初の内は漫画の出来よりも、ラフでもなんでもいいからとにかくちょっとでも時間を見つけて毎日描く、ということを目標にして『琴浦さん』は描いていましたね。琴浦さんが4コマなのも、練習用だったことが理由だったりします。

それはどういうことでしょうか?

えのきづコマ割の手間を省くためです。練習なので、とにかくガンガン描いていくのが大事なのであって、コマ割で悩んでいるヒマなんてないんだ、と。まあ正直に言うと、コマを割るのが面倒臭かったんですね(笑)

ある種の省力化として、4コマがあったと(笑)

えのきづそれと、ネットでの更新がしやすいというのもありましたね。4コマだと一日一本ずつというペースでも更新していけます。逆にストーリー漫画だと、1ページ描くのも時間がかかりますし、毎日1ページずつ更新しても読者が追いにくいじゃないですか。4コマだったら1本ずつでも読むことは出来るだろうと。『琴浦さん』は4コマを描いているという意識もないままに描き始めたので、今でも4コマを描こうと思って描いていないんです。ちゃんと4コマを描いている作家さんから怒られてしまいそうですが(笑)

しかし、4コマという形式を意識しなかったことが、『琴浦さん』のコメディとシリアスを行ったり来たりする、4コマらしからぬストーリー展開を生み出すことになったのかもしれませんね!
ともかく、その練習用だった『琴浦さん』がマイクロマガジン社の目にとまり、単行本・連載デビューを果たすと。その時の顛末は巻末あとがき漫画などで触れられているのでそちらに譲りますが、デビュー後もしばらくは兼業作家として会社務めも続けられていたとか。当時はどのような感じで執筆をされていたのでしょう?

えのきづ会社が終わった後と土日休日は全て使って描いているという感じですね。そして他は何もやらない(笑) 仕事するか漫画描くかという感じの生活でした。漫画を描き始めていた頃が仕事も比較的落ち着いている時期で、休日出勤があるような感じでもなかったのも大きかったですね。

そこから専業に移られた理由はなんですか?

えのきづ今の話とも繋がるんですけど、次第に仕事のほうがどんどん忙しくなってきてしまい、漫画家とサラリーマン、どちらを選ぶかという2択になっちゃって―さすがに両方を選ぶのは無理なので―、せっかく漫画で仕事が出来るという感じにもなってきたので、じゃあ漫画家やってみるかと。仕事が辞めたかった訳ではないです、決して(笑)