全話解題!『Latin 高畠エナガ短編集1』

先日発売されました初単行本となる短編集について、各話毎に質問していきたいと思います。掲載順が『Reversi』『Latin』『雪原のネストーレ』『猫又荘の食卓』だったのでその順番で。まず、1話目の『Reversi』を描くのにどれくらいの期間を与えられたのでしょうか。

エナガ 最初の打ち合わせが2月くらいで、締切が8月くらいでした。なので、執筆期間としては半年くらいあったんですけど、その間に「Latin」も描かなければいけなかったので、実質3~4ヶ月といったところです。凄く苦労した作品ですね。

「天使と悪魔」モノにするというアイディアはどこから生まれたのでしょうか?

エナガ 人外モノが流行っていたので、その流れで自分も描きたいなと思っていました。ただ1番最初にマニアックなモノを載せちゃうと読者に引かれてしまう恐れがあるので(笑) オーソドックスな天使と悪魔にしたという感じですね。

女の子二人の軽い百合ものというのも、ファンタジーとしては大分マニアックな気もしますが(笑)

エナガ 最初は学園を舞台にしたバトルものにする予定だったんですよ。ただどうしても32ページの中だとバトルがしづらかったので今の形になりました。

先ほど苦労した点があったと仰っていましたが、具体的に教えてください。

エナガ 短編漫画は8ページや16ページぐらいのを3作品くらいしか仕上げてなかったんですね。だからちゃんとした短編作品を描く経験というのが全然なくて、ストーリーの作り方とかどうやったら良いのかめちゃくちゃ悩みました。途中でコンセプトとかテーマとかが変わったというか、作品の売りを途中で変えてしまったとか、つまずく点が多かった作品です。

次は表題作の「Latin」について。同一タイトルのものを自身のサイトでも上げていますよね。リメイクすることになったきっかけとは何なんでしょうか。

エナガ 単行本になるというのは最初から分かってたので、どれを表題作にするかを考えていました。サイトにある「Latin」の方は3年生の頃の課題で描いた短編なんですけど、まだやりたかったことが沢山あったので、今回の表題作として描ききろうと思いました。

Web版では男の子とアンドロイドの女の子の関係性しかありませんでした。商業版で、アンドロイドを捨てた家族側も描くことにしたのは何故でしょうか?

エナガ 元々、捨てられたロボットというアイディアが先にあって、最初は家族側を話に出させないプロットがありました。やるに従って、合間にあった家族をないがしろにしたくなかったというか、主人公にも傷があって、それとシンクロさせて浮きだたせるためにも、もう1回家族を出す必要があったかな、と考えま した。

Web版に比べると、消化しなければいけないエピソードが多く大変だったと思うのですが、間延びしないように意識したことはありますか?

エナガ 「Latin」の場合はトライアル&エラーを繰り返すのが基本で、ラテンを直すまでと、そこから先のクライマックスまでを描きたかったので、ページ数が規定を超えないよう、とにかく始まりの部分、主人公が写真を見つけてから、ラテンを直していこうと決断するまでを、とにかく短くしようという風に考えていました。

途中挟まれる、サイレントで日常描写が積み重ねられていく場面も、スピーディながら二人の関係の変化が良く分ける効果的な演出でした。

エナガ その辺りは、ピクサーの作品を意識しました。アクションを反復し、最初はダメなんだけど後に行くに従って成功していくことで、主人公とパートナーの成長と絆の深まりを強調しています。

4作品の中で、この作品は特にアップとロングを大胆にとっているように感じたのですが。

エナガ 描きながらのめり込んでいくので、その時に感じた印象とかを、少しでも強く見せるため、とにかくアップにするところはアップにしています。とにかく魂を込めるみたいな感じで描いているんですよ。そうしないと漫画が面白くならない気がして。
あと漫画に必要なのが、作者の「たくらみ」だと思います。ここでびっくりさせてやろうとか、物凄く爽快にさせてみようとか。「Latin」では、告白のシーンとその次の見開きでインパクトを与えてみようという企みがあったので、凄く上手くいった作品ですね。

それでは次に「ネストーレ」について。幕間のページに、「最初は男の子がロボットと戦う話だった」と書いていたのですが、まず浮かんだのはファンタジー世界にロボットがいたら面白いというアイディアだったのでしょうか?

エナガ そんな感じですね。メインの2人は同じで、あるすれ違いから妖精が暴走してロボットに乗るという感じでした。妖精とロボットはワンセットで初めからありました。

ロボットがガソリン駆動だというのも、個人的に「熱い」部分だったのですが。

エナガ ファンタジーの世界で1番害になるのは化石燃料かな、と考えました。たとえば木だらけの世界に鉄の武器が出てきたら、絶対かなわないじゃないですか。ファンタジーの世界では化石燃料で動く鉄のロボットは1番強力で、魔法とかも通じないという風に考えていました。

個人的に、シーンとして印象的だったのが、カディアが震える膝を「パシッ!」と叩くところでした。

エナガ あそこは、とにかく快活なだけではなく恐れも持ち合わせているというか、キャラクターに多面性があることも描かないと、リアリティがでなくてイカンよな、と考えていました。
自分が1番大事にしているのは、「キャラクターが生きている」ということです。そのキャラクターが、作者の考えたストーリーラインで動いているのではなく、そのキャラ自身が考えて行動しないとまずいよな、というのがずっと頭にあります。生きているキャラクターを見たくて読者は漫画を見ると思うので、自分の都合で捻じ曲げては、後で必ずしっぺ返しを食らってしまいます。

もう一つ、妖精の女の子が、物語のクライマックスで黒い服を脱ぎ捨て、下に着ていた純白の服が露わになる、という演出が、彼女の心の動きとマッチしていて感動しました。
エナガ そこはその通りですね。。衣服を脱がせて白い薄着の姿を見せた方が格好良いし、自らの意思で束縛から開放していくように見せたいという意図もありました。ちなみにこのキャラのモチーフは、マトリョーシカなんです。実は同じデザインのままのモデルがあるんです

最後は「猫又荘」について。この作品の絵柄は、今までのトーンやベタを駆使した画面とは真逆で、髪の毛1本1本に至るまで手書きで処理するような、淡い印象の画面になっています。

エナガ この頃はとにかく、付けペンでカリカリ描くのが楽しすぎて、描き込みをやりまくりました(笑) 付けペンを使ったのが、これがほとんど初めてなんです。なのでとにかく付けペンに慣れる必要があった。色々ペンを変え、墨も変えるようにして、どれが1番合うのか模索している時期です。色んなメーカーを試したので、本当に細かく見れば違いが分かるかもしれません。

ラストシーンの音楽プレイヤーを「外すこと」と「付けること」、どちらにも救いがある終わり方が良かったです。

エナガ 猫又荘の中では、葛藤や感情の浮き沈みみたいなのを詰めたくなかったんですね。そういう問題が全て解決した世界が描きたかったので。ですのでそういった変化を強調するのではなく、さらりと流す形を選びました。

短編集全体をみてみると、生まれつきの容姿等、どうしようもない部分でコンプレックスを抱えているキャラクターが、それをいかに乗り越えていくかというテーマが根幹にあったように思えます。

エナガ 自分の中のフォーマットなんですよね。自分にはどうしようもないものがあって、それとどう向き合っていくか、それはもう絶対描きたかったことです。
なのですが、 最近は他の物も描きたいなと思い始めました。少しずつ漫画を描いていくうちに、そういったコンプレックスを受け入れるようになっているのだと思います。

 

 

最後に今後の目標などをお聞かせください。

エナガ 月刊誌の方にも目を向け、長期連載を目指しいきたいなと考えています。それと雑誌の掛け持ちもしたいですね。アシスタントも雇って、大量生産出来るようになっていきたいなと考えています。月刊連載と、隔月や季刊連載2つ以上の場で描いていきたいなと考えています。

アイディアのストックはあるのでしょうか?

エナガ アイディアは揃っています。後はいつ、どのタイミングでやるかですね。

今後のご活躍も期待しております。今日はありがとうございました!

 

 


せんちゃん(眉ほそ)あたたメモ
持ち込みや投稿を一切せずに、この画力と演出などの「漫画力」の高さ、扱うジャンルの手広さに驚かされるばかりです。現在連載中の『人魚の花籠』がどのような展開を見せていくのか、今後もエナガ先生の動向には目が離せません!


 

文責:あたた(@atatakeuchi)