イシデ電先生自身が取材し、その事実を描いた『逃げ腰怨さんぽ~ヘタレ女のミステリーツアー~』にて、エッセイ漫画としての表現で工夫した点はありますか?また、取材で印象に残っているエピソードがありましたらおしえてください。

イシデ女性向けミステリー漫画誌の巻末に毎回3ページ「おまけの読みもの」的に掲載されていて、雑誌のその位置でその分量で、どういう役割をするのが読者は一番気持ちよいのかな、というのはいつも考えていました。エッセイ漫画としては、主人公の”イシデ”キャラが女性の代表とか代弁者とか、レクチャーとかリードするようなキャラにならないように……まあなれませんけど、読者が「今月もばかだねえこの子はまったく」と嘲笑しつつも読みごたえはある、というふうにしたいと思っていました。印象に残っているエピソードはありすぎてトラウマになりそうなくらいありますがほぼ愚痴になりますので自重します。

クッキング漫画『土曜ランチ!』では、4コマという制限のなか、レシピ紹介しつつストーリーを展開させていきますが、構成はどのように考えているのでしょうか。また、おいしそうな料理を描くコツをおしえてください。

イシデ紹介したい料理主導で展開を作っていくこともありますし、逆に、描きたいドラマがあってそれをうまいこと引き出せる料理はないかな……と探すこともあります。試作を作る過程で起きた失敗をネタに盛り込んでふくらませて構成していくことも。いろいろです。うまいことすり合わせができなくていまだ宙ぶらりんのまま陽の目を見ていないネタもたくさん……。
料理漫画における食べものの絵は、冒険のすえにやっとこ手にすることができる「とにかくすんごいお宝」って思いながら、ドラゴンボールの神龍やスーパーマリオのピーチ姫みたいな役どころの、生きたキャラクターを描くつもりでネチネチゴリゴリと描きます。魂で描くぜ!って感じ。まったく参考にならないですね、すみません。あとは、香りとか音とか温度とか、目では見えない「おいしいようす」を目に見えるように描くにはどうしたらよいか。おこげやとろみがいい感じになるように、なども気にします。

 オムニバス夫婦漫画『逆流主婦ワイフ』を連載されていますが、夫婦をテーマにした理由は何でしょうか。また、オムニバス作品を描く際に、1話で読み応えのあるストーリーを完結させるポイントをおしえてください。

イシデ男児は描いたし女児も描いたし女子高生も青年もじいさんも描いた……と、消去法で残った題材が「夫婦」だったからです。わりとそんな感じで「まだ描いてないものって何だろう?」と題材を見つけることは多いです。
1話でストーリーを完結させるコツは……こっちが知りたいよ!言いたいところですが……。たくさん描くことではないでしょうか。32ページ完結でも24ページ完結でも16や12ページでも、まずは終わらせる体験を重ねること。それをしながら、語りたいお話を語りきるために最小限必要なものとそうじゃないものを取捨選択していく、思い切りのよさを鍛えていくとよいと思います。自分の場合は『逃げ腰 怨さんぽ』での「とにかく何が何でも毎回3ページでまとめなくてはならない」という縛りを経験したことが効いている気がします。

下積み時代での苦労話がありましたらおしえてください。また、その解決方法がありましたらおしえてください。

イシデもうただただ「面白い漫画がかけない、かいても掲載されない、アンドお金がない」の3つです。解決方法はかくことだけなので今思うとシンプルでした。当時はたまったもんじゃなかったですけど。他には、絵が全然描けなかったこと。同じ絵を10回も20回も描き直すせいで絵の勢いが止まってしまうのに苦労しました。でも、その時点での自分にはどうしても必要な作業だったので開き直るしかありませんでした。

様々なことを模索、挑戦し、漫画を描き続ける姿勢を持ち続ける上で、苦労なされることもあるかと思いますが、それを乗り越えることで得たことは何でしょうか?

イシデ様々なことを試してきたというのは、続けてきた結果としてそうなってはいますけど、実際に取り組んでいる最中はひとつのお話を完成させるっていう、それだけなんですよね。いつもずっとひとつだけなんです。「まだかいてないものをかこう」っていうのも、続けていくと「まだかいてないものをかく」っていういつもと同じことを今回もするっていう、普通です。大変には違いないですし弱音も愚痴もこぼしますけど、苦労という感じではなくて、普通の、いつものお仕事です。なので、得るものも、お金と、お客さんと、次のお仕事とかやりがいとか、あとは少しでも腕が上がればっていう、他のお仕事の人とそんなに変わらないんじゃないかと思います。

ここまで漫画家の道を進み続けられた理由や支えは何だと思いますか?

イシデやめようと思ってもやめられなかったことがいちばん大きい理由だと思います。支えは……最近までは、おなじみの「単行本10冊出すまでは……」というのがありましたが出てしまいましたね。これからどうしたものでしょうね。猫が2匹いるので看取るまでは稼がないと。完結させてない漫画があるプレッシャーが結果的に支えになっているかもしれません。

イシデ漫画家としての今後の目標をおしえてください。

続けることです。それと、この前描いた漫画より面白い漫画をかくこと。デビュー前から変わりません。

最後に、漫画家を目指す学生の方へメッセージをお願いします。

イシデお話を最後まで作る力をつけることとか、最後まで作ったネームを練り直す力をつけることとか、伝わる絵を作るための画力とか、身につけなくちゃならないことはいろいろありますが、学生さんへということなので、特に、というものを。せっかく学校へ行っているならぜひ生きている人間と関わってください。はしゃいだり戸惑ったり尊敬したりむかついたり適当にあしらったり行き違ってこじれたり、ひとりでは経験しきれない、物語のような着地点のない、いろんな心持ちを実戦で味わってほしいです。私はその辺をわずらわしがって疎かにしてきてしまったので本当は人さまのことをとやかく言えないのですが……。人の心を直球で揺さぶるもの第一位は、やっぱり人の心だと思うのです。心持ちをどれだけ鮮明にえがけるかでキャラクターの豊かさもドラマの切実さも違ってきます。すごいめんどくさいですけど、お互いがんばりましょう。