「皆さん、悲しい発表があります……」

昨年の9月28日、twitter上にて『アバンチュリエ 新訳アルセーヌ・ルパン』の作者森田崇先生の悲痛なつぶやきが投稿された。イブニングで連載中であった同作の、年内いっぱいでの連載終了が決定してしまったのである。 だが、本当の驚きはその先にあった。なんと先生自ら、twitter上で大々的に移籍先を募集。一連の騒動は連日、ネットを中心に漫画好きの間で話題に上がり続けた。そして時を経て三ヶ月後のクリスマス当日、イブニングでの連載終了と同時に、『月刊HEROS』への電撃移籍が発表されたのだ! まさに、本家アルセーヌ・ルパン顔負けの大逆転による鮮やかな復活劇。
マンガラボサイトリニューアル記念企画として、今までとは趣向を変え、森田先生の仕事場にお邪魔し移籍騒動の顛末や、『アバンチュリエ』についてじっくりと語っていただいた。

 


まずは現在の率直な気持ちをお聞かせください!
森田崇先生(以下森田)もちろん移籍が決まって嬉しいと思うし、机に座って執筆をしていると「あっ、俺また『アバンチュリエ』描いてる!」という思いがこみ上げてきます。

反面、これからが勝負だという怖さもあります。「あれだけ移籍のときに騒いだのに結局この程度か」と思われるのは嫌なので、改めてここからだなと。騒動をきっかけに新たな読者も入ってきてくださる一方、ここで結果が出せなければ今度こそ終わってしまうかもしれません。せっかく多くの人に知っていただくきっかけにもなったので、作品の面白さを分かっていただけるよう、集中して良いものを仕上げていこうと身が引き締まる思いです。

 

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森田先生の仕事場風景。モニターに映る原稿はもしや……!?

 

『twitter移籍騒動』の顛末

イブニングでの連載終了が決まったのち、すぐさま移籍先を探しはじめたのでしょうか?

森田まず9月ぐらいに連載終了というアナウンスを受けました。ただその頃は、読んでくださった読者の反応や、作家の芦部拓先生や漫画家のゆうきまさみ先生など、著名な人たちから評価をしていただいているということを、twitterを含めて知っていたので、それなりに手応えを感じ始めていたんです。なのでそのとき思ったのは、「あきらめるのはまだ早い」ということでした。

もう一つ、続きを描ける自信が多少はあったんですよ。というのは、最近は昔と違ってパーティーにでたり、ネットやtwitterでほかの編集さんに声をかけてもらえることが増えたんです。ほかにも作家さん同士で集まるときに、編集さんが混ざってて「今度ウチでどうですか?」と言ってくださったり。そういった機会がそこそこ多くて、タイミングと状況さえ合えば、仕事自体はなんとか食いつないでいけるかな、という実感はあったんです。『アバンチュリエ』も、「ルパン・シリーズ」というある程度信頼のできる土台があることは保証されているので、編集者さんの中から続きを読みたいと言ってくださる方が、その内出てくると思っていたんです。

イブニングの連載終了以前から移籍先を探し始めたのはなぜなのでしょうか?

森田ふつうに連載が終わってから、編集さんの連絡を待つというのが一番穏便なやり方ではあったんです。ただそれをやってしまうと、まずアシスタントチームを――彼らも自分の生活がありますので――次の仕事が決まるまで解散させなければならなくなります。そうすると、ようやくツーカーで動いてくれるようになり、波に乗ってきた感じだったスタッフを、また一から育てないといけなくなる。それに『アバンチュリエ』の続きを描かないかと言ってくださる編集者さんが、どのタイミングで現れるかもわからない以上、僕も食べていかないといけないですから、次の仕事を見つけるために活動をしなければいけないし、『アバンチュリエ』ではないものを始めてしまう可能性もある。それをやってしまったら早期の移籍は不可能になり、実質上『アバンチュリエ』は終わってしまいます。終わるまでに三ヶ月ほど猶予期間があったので、それまでに先手を打って終了することを発表してしまって、移籍先を募集するほうが可能性が広がると思ったんです。

 移籍先を探すために、「twitter」というツールを利用したのはなぜでしょうか?

森田移籍新連載自体はたまにある話なんですが、僕の場合で特殊だったのは「twitter」ですよね。とはいえ、僕としてはこれからすごく新しいことをやるぞという気負いはありませんでした。とにかく自分でできることはすべてやろうと思っていたので、twitterが特別だったわけではないんです。実はtwitterで発表する以前に、裏で知り合いの編集さんに話をしたりもしていました。

ただtwitterはたくさんある手段の中の、切り札の一つだとは思っていました。それは狭い世界かもしれないけど、twitter上ではある程度手応えがあったということと、「mixi」や「Facebook」よりも、ずっと開かれた空間になっているところに魅力を感じていたからでした。続きを読みたいと思ってくださる人が一定数いて、その人たちが広めて応援してくださるんじゃないかな、という若干の期待がありました。まだ広まっていない、潜在読者がいるんじゃないかという自信も少しはありました。

とはいえ、ここまで多くの方に広めていただいたのは完全に想定の範囲外でした(笑) 自信といってもここまでの自信ではなくて、予想以上にたくさんの方応援していただき、本当に嬉しくて有り難かったですね。

反響の大きさを実感したのはどのあたりからですか?

森田一連のつぶやき以降、お声を掛けてくださる会社が一気に増えました。漫画関連で10社、漫画が関係ない会社からも同じくらいの数の方から声をかけていただきました。文芸誌の方がお声をかけてくださったり、描き下ろしで描いてみないかという依頼もありました。メルマガやまとめサイト、原画展をやらないかとのお声もかけていただきました。これだけの逆境の中で、声をかけてくださっただけでもありがたかったですね。

移籍を決められた『HEROS』も、twitterの反響がきっかけで声をかけてきたのでしょうか

森田元々、『HEROS』の現編集長さんが元小学館のスペリオールの編集さんで、『ジキルとハイドと裁判員』よりも以前にお仕事をしたことがあったんです。その方とはFacebookでも繋がっていました。それでtwitterの騒ぎのときに、『HEROS』の他の編集さんが「すごいことになっていますよ」と編集長さんに言ってくださったそうです。それをきっかけにFacebook上にて、まるで普通のやりとりのように「森田くん、ウチで描かない?」というメッセージが飛んできました(笑)

 『HEROS』で執筆することを決意する決め手となるものはなんだったのでしょうか?

森田これで移籍に関しては決まりそうだ、というのは割と早い段階でひと安心できたんですけど、次に避けなければいけないのは、移籍してすぐ打ち切りになることですよね。

声をかけてくださる編集さんは、皆さん「『アバンチュリエ』は良い漫画だ」とおっしゃってくれるのですけど、だいたい大きく分けて「良い漫画だから助けたい、なんとかしてあげたい」と思ってくださる方と、もっとストレートに「ウチで欲しい」と思ってくださっているような方の二つに分かれていました。愛してくれているのは、もしかしたら前者の方かもしれないんですけど、それだと評価としては一回数字として結果が出てしまった作品だから、決して楽観視はできないんです。逆境だけど頑張りましょう、と言われるところは、すぐに連載を切られてしまいそうな匂いもありました。

なので、その雑誌全体でどれくらいプッシュしてくれるかが大きなポイントでした。本腰を入れて欲しがってくれているところと、声をかけてくれた現場の編集さんはすごく乗り気でも、編集長さんであったり営業の人だったりが難色を示していそうなところの二つに分かれているように感じていました。その中で、『HEROS』さんが一番腰を据えて、ある程度前面に押し出してくれると感じました。他にも熱心に誘って頂き、一緒に仕事をやりたいなと思った雑誌もあったんですけど、総合的に考え、最終的に移籍先を決めさせていただきました。